錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
フェデラーとの惜敗で再起動した錦織。
トップ8で終えた今季の反省内容とは?
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2015/11/26 10:40
破れはしたがお互いに試合を心底楽しんだという雰囲気で、試合直後にフェデラーと笑顔を交わした錦織。
錦織との勝負を刺激にする、フェデラーの余裕。
素直にそう振り返ったが、錦織だけが楽しんでいたわけではなかった。フェデラーは日本の記者の質問に対し、丁寧すぎるくらい丁寧にこんな話をしている。
「僕も昔、憧れだった選手と試合するのが好きだったよ。(ピート・)サンプラスとか。テレビでしか見たことがなかった(ティム・)ヘンマン、(カルロス・)モヤ、(アンドレ・)アガシなんかとね。レストランでいっしょになるのも興奮したりして……。それなのに、あっという間に彼らはみんないなくなって、気付けば自分が最年長さ」
さらにこう続けた。
「そうすると今度は自分を別の方法で鼓舞しないといけない。自分のテニスそのものがもっと大事になってくるし、若い選手との勝負を享受することも1つの方法だ。新しい時代のテニスを作っていこうとしている世代の代表たちとね。そしてケイは間違いなくそういう選手の一人なんだ」
34歳になったフェデラーにとっても錦織との勝負は、ある意味で“挑戦”なのだ。そこには、長年王者に君臨した者の勝負に対する楽しみ方の幅広さがある。
王者たちのテニス人生が若い世代のヒントに。
フェデラーに引っ張られるように30代になってもピークを維持する選手が増える昨今、今大会の出場者も8人のうち半分が30代だったが、ニューウェーブと呼ばれる10代も不気味なパワーを秘めている。錦織にも牙を剥いてくる敵は次々現れるだろう。しかし、フェデラーはそこを生き抜くヒントをも教えてくれているのかもしれない。
嘘のようだが、フェデラーは昨年初旬に世界ランクを8位まで落としていた時期がある。引退という言葉もちらほら出ていた。フェデラーだけではない。ここまで強くなる一方だったように見えるジョコビッチですら、「テニスをやめることも考えたことがある」という過去を明かした。
「28歳でここまでくるのにはいろんなことがあった。21歳で初めてグランドスラム・タイトルを獲ったときは最高にうれしかったけど、それから長いプロセスの中で学び、浮き沈みも経験し、自分を信じたり疑ったりしながらやってきたよ」(ジョコビッチ)