錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
フェデラーとの惜敗で再起動した錦織。
トップ8で終えた今季の反省内容とは?
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2015/11/26 10:40
破れはしたがお互いに試合を心底楽しんだという雰囲気で、試合直後にフェデラーと笑顔を交わした錦織。
「トップ8で終われるのは価値のあること」
そのジョコビッチに準決勝で敗れたラファエル・ナダルも、ここで復活を印象づけた。
錦織は今夏のモントリオールでナダルとの8度目の対戦にして初勝利を挙げたが、錦織のようにコートの中に入って速いタイミングでボールを打つテニスに対し、ベースラインの後方からトップスピンで打ち返すテニスはもはや時代遅れとまで言われたものだ。しかしこの短期間で、今のナダルは前で打つテニスをマスターしているように見える。
1年前は錦織がラウンドロビンの初戦で快勝したアンディ・マレーも、昨年のスランプから今季は見事に立ち直り、ツアーファイナルは錦織同様ラウンドロビンで敗退したものの2位でのフィニッシュとなった。
「(マレーは)まあ、しぶといですね……」と苦笑いした錦織だが、それを歓迎しているようにも見えた。考えてみれば、それもそうだ。彼らによって錦織のテニスはまだまだおもしろくなることが、今回確認できたのだから。そして自分自身に話を向けた。
「でも、ラオニッチとかチリッチとか去年出たメンツが出られない中、自分もこうして安定して結果を出したのは評価できると思います。もっと上なら良かったですけど、トップ8で終われるのは価値のあること。この位置にいるのも簡単なことではないので」
最後に取り戻した自信から出た、及第点だったのだろう。
欧州勢中心のテニス界で際立つ錦織の存在感。
私事を1つ。
グランドスラムでもあまり土産物を買わないタチだが、今回はマグカップを1つだけ買ってきた。8本のラケットのフェースを国旗に見立てた大会のオフィシャルデザインが描かれている。ラケットは8本でも、国旗はスイスとスペインがだぶっているので6つしかない。中心に大きなセルビアの旗、そして右の端に小さい「日の丸ラケット」がある。それがうれしくて、思わず手が出てしまった。
現在ATPは合計2250人のランカーがいて、今年のデビスカップには126カ国が参加したが、その中でたったの8人、たったの6カ国なのだ……ファイナルに出場しているのは。
アジアで唯一、いや、ヨーロッパ以外で唯一の国旗である「日の丸」が、控えめな場所から一番存在感を放っているように見えるのは気のせいか。
これほどワールドワイドに広がったツアーの最高峰の戦いが、ヨーロッパ人のものだけであっていいはずがない。
小柄なアジア人、錦織の存在はやはりテニスの可能性の象徴だと感じる。
日の丸は来年、どの位置にどんなふうに描かれるのだろうか。