サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
決定力不足ではなく、戦術が招く必然。
ハリルのタテ一本槍が消す日本らしさ。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/11/18 11:30
終了間際のゴールで日本史上初となるW杯予選5戦連続ゴールを決めた本田圭佑。
柏木のゲームコントロールは際立っていたが……。
カンボジア撃破の立役者は、後半から出場した柏木陽介である。
遠藤に代わって投入された背番号7は、ボランチのポジションからDFラインの背後へパスを送り、前半の攻撃に欠けていた奥行きを生み出した。同じく62分に送り出された本田が幅をもたらすことで、柏木のゲームコントロールがさらに際立った。5-4-1の相手守備陣を崩すのに、パッサータイプの彼は適任だった。
しかし、気になることもある。
シンガポール戦に続いて評価を高めた柏木だが、彼の出来は際立っていたか。答えはNOだろう。デュエルでの奮闘は代表定着への気迫の表れだとしても、浦和レッズではもう少しゴール前へ顔を出していく。リスタートも含めたパスの供給源たり得る資質は証明したものの、ポテンシャルのすべてを解放したわけではないのだ。
柏木だけではない。2列目で起用された原口元気、宇佐美、本田は、ボランチがボールを持つとサイドへ開くか、DFラインの背後へのランニングを最優先に考えていた。スルーパスやカットインからのフィニッシュは、ほとんど披露しなかった。
トップ下の香川真司も同様である。ボールホルダーから離れて、パスの受け手になる動きが多かった。宇佐美も、原口も、香川も、本田も、持ち味の一部しかピッチ上で表現していないのである。この日は1トップで先発した岡崎慎司も、フィニッシュワークに関われた回数は少ない。
日本の持ち味が消えてはいないか。
人工芝への戸惑いが、ワンタッチでのパス交換やコンビネーションプレーを難しくしたところはある。それにしても、日本人らしさや日本らしさが薄れている気がしてならない。
2015年最後の活動となるシンガポール戦とカンボジア戦の選手起用は、チーム内の競争原理を働かせる意味で評価できる。その一方で、タテへの速さを求めるハリルホジッチ監督のスタイルは、日本人選手の個性を最大限に引き出すに至っていない。
試合後のハリルホジッチ監督は、「後半はチャンスを多く作ったが、2点しか取れなかった」と話した。指揮官の言葉どおり、両サイドからのクロスに岡崎や本田らが飛び込み、地元観衆の悲鳴を誘った。