屈辱の二軍落ちと若手捕手の台頭。

　日頃から「捕手は大きく勝敗に関わるポジション」と自負する伊藤の苦悩は、憔悴しきった表情からも見て取れた。

　エース金子をはじめ投手陣に故障者が多かったことがつまずきの大きな要因だが、伊藤は「チームとして戦っているので、それは言い訳にしたくない」と言う。

　追い打ちをかけるように捕球や送球のミスも出て、次第にベテランの山崎勝己がマスクを被る試合が増えた。5月には二軍落ちも経験した。

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　シーズン終盤には、19歳の若月健矢が一軍に昇格。スタメンマスクを被ると、福良監督代行の評価は日ごとに上がっていった。

「バッターの反応をよく見ている。そういう部分が若月は、キャッチャーとしての能力が高いんじゃないか」

　単に若手に経験を積ませるための起用ではなく、純粋な競争だと指揮官は言う。

「若月と光は競争。今の段階では、一緒ぐらいじゃないですか。若月は楽しみがある。使ってみたいと思わせるものを見せてくれた。光が、そこでどう感じたかですね」

　そう言ってほくそ笑んだ。

「自分が情けない。こんな年はもう最後にしたい」

「他の選手がマスクを被っているというのは、やっぱり嫌。自分じゃなくて、違うキャッチャーを使ってみようかという気持ちに、監督やコーチがなっているからそうなったと思うので、悔しいし、自分が情けない。こんな年はもう最後にしたい」

　シーズン最終戦のあと、伊藤は絞り出すように言った。

「浮かれているつもりはなかったけど、やっぱりそう簡単に、去年2位だったから今年は優勝できる、なんてことはないんだと言われた感じ。自分はそう受け止めています」

　屈辱のシーズンとなったが、ベンチから見る機会が増えたことで、自身のリードの改善点が見えた。

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