猛牛のささやきBACK NUMBER
チームの「中心」から一度は脱落。
オリックス・伊藤光は再起できるか。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNanae Suzuki
posted2015/11/11 10:50
伊藤の'15年シーズンの出場試合104に対し、山崎は79試合、若月は5試合。他のライバルには20試合出場の伏見寅威もいる。
正捕手奪還へ向けてのテーマ。
「偏りをなくすこと、ですね。まとまりすぎるとバッターは目が慣れてくるので、いろんなボールを使って抑えにいくことが自分にはもうちょっと必要かなと。外に投げるからって逃げているわけではないし、インコースに行ったら強気というわけでもないんですが、攻めるところは攻める、引くところは引く、その引き際が大事。勝つための状況判断ですね」
これまでの伊藤は、バッターの苦手なコースや球種をしつこく攻め続けるのが持ち味だったが、それだけでは一軍の打者は打ち取れなくなると感じた。
「もちろん苦手なところには徹底的に行くんですが、いくら苦手といっても、相手もプロ。何打席も見れば対応できるレベルの選手が揃っているのが一軍です。そこで1球、得意とされているコースにも、ボール球で見せて、次にまた苦手なコースを攻めるとか、そういう作業が僕はたぶん足りなかったから、結果的に負けた試合が増えたんだと思います」
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今季の伊藤は、「他の野手と違って、試合中、楽しいと思う時間はほぼなかった」と言う。
「勝った時は楽しいと思うんですけど、それまでは何が起こるかわからないですから。いいことばかり考えるんじゃなくて、『こういうケースもあるかも』とか『悪いケースになった時にはこうする』ということも考えている。すべてがいいように進むと思っているとダメ。僕がそれで、今年失敗したので……」
12球団トップの防御率を再び取り戻すために。
オリックス投手陣は昨年までの2年間、12球団トップの防御率を誇った。その自信と信頼があったからだろう。今季の開幕時、投手陣の状態は決してよくなかったが、伊藤は攻めのリードを貫いた。
「逃げちゃえばいいところで、うちのピッチャー陣は攻められる、行ける、と思って、攻めていって、結局ガンと、取り返しのつかない打たれ方をしたりした。『絶対行ける』じゃなくて、『もしかしたら』と一歩引くところが自分には少し足りなかった。冷静になれる自分がいれば、今季の出だしももう少し結果は違ったかなと思います」
昨年得た自信を打ち砕かれた2015年。しかし、このままでは終わらない。
10月末の秋季練習。カラリと晴れた秋の日に焼けて精悍さを増した伊藤がいた。
「もう一度アピールしていかなきゃいけない。『光に任せとけば大丈夫』と思われるように。はやく、やり返したいっていう気持ちがすごく強いです」
来季のリベンジが待ち遠しいと言わんばかりの、吹っ切れた表情だった。