錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
フェデラー、アガシも錦織圭に夢中!?
世界的人気の、その“キャラ”とは。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2015/06/17 10:40
超イージーショットをミスした時の、錦織お決まりのポーズ。なぜ腹を出すのか……それは本人にしか分からない。
フェデラーのマイブームは錦織の「いいテニス」。
ローランギャロスでベスト8入りを決めた直後の会見では、「日本男子として82年ぶりとなる全仏オープンのベスト8入りについてどう思うか」と聞かれると、“期待”を裏切ることなく、「え~っと……」としばらく言葉を探したあと、観念したように、「正直、特にはないです……すいません」と頭を掻いた。
英語バージョンの錦織はもっとよどみなく、お茶目キャラがやや薄れるのが残念だが、英語であれ日本語であれ、彼は言語表現よりもコート上での表現力がはるかにまさっていることは確かだ。テニスプレーヤーだから当然といえば当然だが、中にはコートパフォーマンスに匹敵する言語表現力を持つ選手もいて、ロジャー・フェデラーはその一人。だから、記者たちはその経歴と併せてテニス界一言葉の説得力を持つ彼に、ご意見番として何でもかんでも尋ねるのだが、そのフェデラーが2回戦後の会見でこんなことを語った。
「僕は一テニスファンでね。特に大会中は他の試合を見るのが好きだ。最近は錦織の試合を見たよ。単純に、いいテニスが見たい気分になったからなんだけど」
錦織の華麗なプレーはアガシをも魅了する。
このコメントは日本でも即座に報じられたが、日本のメディアが錦織のことを尋ねたわけではない。それなら多少のリップサービスもあるかもしれないが、これはラファエル・ナダルとニコラス・アルマグロの対戦について外国の記者が聞いたときに、まったく関係のない錦織の名前を不意に出してきたのだった。
いいテニスを見たくなったから錦織の試合を見た……選手として、これをフェデラーから言われる以上の誉れはそうそうあるものではない。錦織とは準決勝で対戦する可能性があったため、日本では「視察」というニュアンスで伝えられたが、ここは本人の言葉そのままに、現役レジェンドが難しいことを抜きにして錦織のテニスを眺めて楽しんでいた姿を想像するほうが愉しい。
勝ち負けに対する興味を脇においても失われない、そのテニスのクオリティと豊かな表現力に対する期待と安心感は、去年の秋にチャリティーイベントで来日した元王者アンドレ・アガシが言った賛辞にも通じるだろう。
「ケイは、自分がお金を払ってでもそのテニスを見たいと思う数少ない選手の一人」