錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
フェデラー、アガシも錦織圭に夢中!?
世界的人気の、その“キャラ”とは。
posted2015/06/17 10:40
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Hiromasa Mano
全仏オープンが幕を下ろした翌週から、ツアーはもう芝の戦いが始まっている。いったんフロリダに戻った錦織圭は1週空けてドイツのハーレからのスタートだ。
優勝も狙えると期待されたローランギャロスの戦いは、ベスト8に終わった。地元のジョーウィルフライ・ツォンガとの準々決勝は、前半に「自分を見失っていた」ことと、後半持ち直してフルセットに持ち込みながらほんの片時「集中力を欠いた」ことが、痛手となった。悔やまれるに違いないが、ツォンガが試合後に赤土のキャンバスに『ROLAND JE T'AIME』という文字を刻んだ行動は、いかにあの勝利の意味が大きかったかを物語っている。
「ジュテーム(愛してる)」という言葉を用いた、ローランギャロスと人々への感謝の気持ちの表現は、ツォンガがいつかやろうと心に決めていたことだという。今こそその時と直感し、書いた「T」の文字に重ねて大の字になるという芸術的なパフォーマンスまでやりきったのだから、入念な準備が奏効したまさに会心の勝利だったのだろう。そういう意味で、錦織も世界5位の存在感を示した終幕だった。
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それにしても、こんな行動が自然に絵になるところは、フランス人の気質か、中でも秀でたツォンガのロマンチシズムのなせる業なのか。そういう目で周りを見回せば、ツアーは愉快な個性の宝庫だ。あんなに強いのに道化者をやらせたらピカ一のノバク・ジョコビッチに、余計な一言からの騒動が絶えない毒舌アンディ・マレー、「パジャマパンツ」と揶揄されたウェアもなんとなく似合ってしまうスタン・ワウリンカ……。
コートを離れた錦織は脱力系の天然キャラ。
では錦織はどうだろう。外国人記者の間では、「ちょっとお茶目なナイスガイ」が定着しているようすで、「お茶目」というのは、この連載の中でも以前紹介した“ひよこちゃん”エピソード等に拠るものだろう。お茶目もナイスガイもその通りだが、日本人の目から見ると、勝負を離れたときの「脱力系」なところもそのキャラの重要ポイントだ。
記者会見では時にその片鱗が見られるのだが、話している途中で突然「まあいいや」とか「あ、やめときます」などと言ってあとは笑ってごまかすことがある。細かい説明に途中で飽きるのか、難しいことを言ってもこの人たちはわからないだろうと思うのか、あるいは、こんなことまで明かすべきじゃないなと突如慎重になるのか……。多くのトップ選手はそういうときでもうまく話を作って体よく答えをまとめるのだろうが、錦織は嘘をつけない。そういえば、時々質問を聞きながらあくびをかみ殺していることもあるが、メディアに囲まれた状態でその自然体は驚くばかりだ。疲れているのかなあ、つまらないんだろうなあと申し訳ない気分にもなるのだが、あくまでも、真摯な受け答えの中での「たまに」の話。念のため。