プレミアリーグの時間BACK NUMBER
「前半1分から勝ちに行くと信じる」
セスクとモウリーニョの哲学は同じ?
posted2015/03/21 10:45
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Tomoki Momozono
ジョゼ・モウリーニョは、昨季から監督として復帰したチェルシーの若い主力を「キッズ」と呼ぶ。そのモウリーニョのチェルシーが、愛着ではなく非難を込めて「ベイビーズ」と呼ばれたのは去る3月11日。PSGを相手にCL敗退が決まった、決勝トーナメント1回戦第2レグ(2-2)後のことだった。
発言の主は、前半31分に一発退場を命じられたズラタン・イブラヒモビッチ。PSGの大物FWはスライディングした足を伸ばさずに止めようとしており、気の毒なレッドカードだった。プレーの危険性は、ボールを競り合ったオスカルのタックルも同様だった。
にもかかわらず、不満の表情は浮かべても、相手陣営によるピッチ上での文句やスタンドからの野次に反応せずに去ったイブラヒモビッチの態度は大人だった。それに引き換え、血相を変えて主審に迫り寄り、カードを提示する仕草までして退場処分を訴える選手もいたチェルシー側に風格はなかった。
モウリーニョへの非難は、どれほど妥当なものだったか。
普段は「モウリーニョ好き」なイングランドの国内紙も、イブラヒモビッチのコメントを見出しに使った『デイリー・メイル』紙をはじめ、一様にチェルシーを叩いた。各紙には、主審を取り囲んだ行動を「お粗末」と斬り捨てたグレアム・スーネス、「恥知らず」と非難したジェイミー・キャラガーという、両テレビ解説者のコメントも漏れなく掲載されていた。敵を不利な立場に追いやることしか考えていなかったかのように、「ネガティブ」な指揮官の姿勢が投影されたチームが、ホームでCL敗退という当然の報いを受けたと伝えられた。
しかし、主審に対する行動を以てモウリーニョ采配を非難する声には、首を傾げたくなる。たしかに、キャプテンのジョン・テリーを筆頭に、GKのティボウ・クルトワとピッチに倒れていたオスカルを除く9人全員で主審に詰め寄る様子は、審判へのプレッシャーがチームに授けられた戦術の一部であることを窺わせるものではあった。
とはいえ、程度の差はあるにしても、大一番で自軍に有利な判定を審判に迫る光景は他チームにも見られる。個人的には、同じテレビ解説陣の中でも「現役時代の自分にも身に覚えがある。抜け目なく戦うための手段だ」という、ギャリー・ネビルの意見に賛成だ。
国内メディアにしても、スタンフォード・ブリッジでのPSG戦がチェルシーのベスト8入りという結果で終わっていれば、「モウリーニョ流」の戦い方は多分にポジティブな意味で「狡猾」と評されていたように思えてならない。