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新データシステムでわかるJの真実。
原付より速い永井、走り上手の憲剛。
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byAFLO
posted2015/03/09 11:10
足が速いわけでも、走行距離が長いわけでもない。それでも中村憲剛はチームにとって欠かせない存在である。その特殊性が改めて浮き彫りになるのも、データの面白さだ。
原付バイクより速いなら、スペース自体を消す。
齋藤の足が原付バイクより速いのならば、彼が走り回るスペース自体を消してしまおうという寸法だ。さらに、齋藤を活かそうとするパスの出し手への対応も変化させた。
「前半から、マリノスの中盤の選手が最終ラインまで下がってきて、俺1人で3~4人を見る状況だったから、きつくなった。それで、(小林)悠と俺で見る形に変えた」
大久保嘉人がそう語るように、この日の横浜FMはビルドアップの際、後方に人数を割き、センターバックの中澤佑二や栗原勇蔵が川崎Fの最終ラインの背後を目掛けてロングボールを蹴り込んできた。実際、16分にはオフサイドを取ろうとした車屋紳太郎が小林祐三に裏を取られ、中澤のロングパスから同点ゴールを決められた。
それならば、ロングボールの出し手に蓋をしてしまえ。
川崎Fは前半途中からシステムを3-4-2-1から4-4-2へチェンジした。しかもこれは風間八宏監督からの指示ではなく、大久保の提案を受けた中村憲剛が各選手に伝え、スムーズに形を変えたという。この変更により、中澤と栗原に対して、大久保と小林悠の2人でプレッシャーをかけていく。
「悠の攻守の切り替えは、めちゃめちゃ速い。あれは後ろの選手にとっても、すごく助かる」
角田の言葉どおり、小林悠は1得点1アシストを決めた上で、相手にボールが渡ればすぐさま体を寄せた。その献身性は、チーム3位の11.22kmという走行距離が証明している。
圧倒的な存在感の中村憲剛は、スプリントわずか3回。
相手の戦略を読み取り、臨機応変に対応した川崎F。一方、横浜FMの守備陣は、最後まで相手の攻撃に手を打てなかった。
「前からボールを取りに行くのか、後ろでブロックを組むのか、意思統一できなかった。フロンターレに対するやり方は、もう1回整理しないといけない」
栗原が肩を落とすように、タッチライン際に立つ車屋やエウシーニョに守備網を横に広げられ、その内側を走り込むレナトや中村憲剛にセンターバックが食い付いてしまい、逆サイドの大久保や小林悠にフィニッシュを許す。同じようなパターンで3失点を喫した。チーム合計で川崎Fよりも5km以上多い120.38kmもの距離を走りながら、1-3で敗れた要因は、両チームの臨機応変な対応力の差とも言えるだろう。
詳細なデータや数字は、サッカーの見方を広げ、チームと選手の特徴をより深く教えてくれる。ただし、数字に表れない部分が勝敗の肝となるのも事実。スプリント数わずか3回の中村憲剛が、中盤で圧倒的な存在感を示し、ペナルティーエリア内にするするっと進入して、決定的な3点目をアシストするのですから。