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報道されないドラフト1位、松本裕樹。
工藤監督、王会長の「焦るなよ」。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/03/03 10:30
キャンプを終え、3月1日に卒業式に参加した松本裕樹投手。会見でも大物ぶりを発揮しており、肝の据わり具合は本物だ。
工藤監督、王会長から言われた「焦るなよ」。
当時、高校野球番組のキャスターとして甲子園の取材に来ていた工藤は、敦賀気比戦後のインタビューが終わると、松本の肩を叩きながらそう激励していたのだ。
このちょっとしたやり取りが、後に幸運をもたらした。
ドラフト会議直前。この時点ではまだ、工藤はソフトバンクの監督に就任してはいなかった。だが球団は、有力選手の競合を避けるため、将来性を見込んで松本の単独指名に踏み切り、交渉権を獲得。ふたりはプロの舞台で邂逅を果たしたのだ。
不動のエースとしてソフトバンクの黄金時代を築いた斉藤和巳の背番号66を与えられただけでも、その期待は十分に伝わる。だからといって、松本は指揮官から過度なプレッシャーを与えられることはなかった。
「焦るなよ」
工藤監督、そして王貞治会長からも同じ言葉をかけられたという。松本から焦燥感を取り除かせるには、それで十分だった。
2月半ばの第4クールからは、ネットスローを始められるなど、ボールを握る練習も徐々に増えてきている。
「今日は60球やったんですよ」
取材した日のメニューを聞くと、松本は笑みを浮かべながらそう教えてくれた。
無沙汰は無事の便り、楽しみに待とう。
キャンプではノースロー調整が続き、二軍の紅白戦ではスコアを記入することだってある。プロ、ましてやドラフト1位としては不本意な日々を過ごしているのだろうが、松本の表情は晴れやかだ。
「野球をしているだけで楽しいんで。学校の授業より全然いいです(笑)」
将来的に自身の背番号66を「エースナンバーにしたい」と意気込んではいる。ただ今は、自分の体の状態をしっかりと見極めながら調整を続けることに専念する。
「夏までにはなんとか、本格的なピッチング練習ができるようにしたいですね」
今後も、しばらくは松本の露出がそこまで多くなることはないだろう。
無沙汰は無事の便り――。それは、松本裕樹が順調に仕上がってきている、何よりの証なのだ。