Jをめぐる冒険BACK NUMBER
変わりたい、と願うFC東京の2人。
前田遼一と平山相太が迎える正念場。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byMakoto Miura
posted2015/01/26 10:40
FC東京の練習着に身を包んだ前田遼一。リーグ戦137ゴールは中山雅史、マルキーニョス、佐藤寿人、三浦知良に続き5位。偉大なる先輩“ゴン”の157得点に手は届くか。
前田「この年齢で黙々とやるのはどうなのかなって」
「成長」という点についてさらに突っ込んでみると、彼の思い描いていることが、もう少し具体的に見えてくる。
「そこには、選手としてはもちろん、人間としてっていう意味があって。選手としてはやっぱり全体的にもっともっとレベルアップしたい。それに人間としての部分でも、新しい環境で経験を積んで、成長していきたいって思っているんです」
そこで友人の言葉を伝えると、彼は二度うなずいて、こう言った。
「たしかにナオの言うとおりで、この年齢になって黙々とやるのはどうなのかなっていうのを自分自身感じているし、やっぱり盛り上げないといけないっていう気持ちがある。そういう意味でも、少しずつだけど、声を出していきたいと思っています」
寡黙でマイペース――そんな自分を変えようとしている男が、そこにいた。
この移籍をきっかけに、選手としての成長と同じくらい大事なものを手に入れようと心に決めているのだろう。
「いつかまた前田が欲しいと言ってもらえるような選手に」
2年続けて得点王に輝いた実績があるが、決してエゴをむき出しにするタイプのストライカーではない。
2トップを組むパートナーはもちろん、2列目の選手を生かすため、スペースを作ったり、チャンスメイクしたりする能力にも長けている。それが本田圭佑、香川真司、岡崎慎司が2列目に並んだザックジャパンで重宝された理由でもある。
チームの勝利が第一という考えは、磐田でもFC東京でも変わらないという。だが、続けて口にした言葉がとても印象的だった。
「結果を残さないとこのチームにはいられない、ってことも分かっています」
プレッシャーをしっかりと感じている、とも言ったが、その表情や口調に悲壮感は感じられなかった。
退団が発表された昨年12月29日、磐田の公式ホームページに掲載された「いつかまた前田が欲しいと言ってもらえるような選手になれるよう頑張ります」とのコメントから推測すると、望んだ移籍というよりも、せざるを得なかった移籍だったのかもしれない。
だがひとつ確実なのは、今年34歳になる彼が環境を変え、自分を変えたいと思っていることだ。