スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
王者アトレティコの選手が0人!?
リーガ個人賞の不透明な選考過程。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2014/11/05 10:50
10月27日の表彰式で満面の笑みを浮かべるセルヒオ・ラモス(中央)と、どこか浮かない顔のシメオネ(右から2番目)ら。
全く透明化されていない賞の選考過程。
そもそも、これらの賞がどうやって選ばれているのか分からないのがおかしい。スペインリーグ(LFP)の説明によれば、これらの賞は1部、2部計32チームの第1~第3キャプテン3人の投票を募り、集まった票を元に「各賞3人のノミネートを作成する」という。しかしこの説明は、その後にどうやって受賞者を決めるのかという肝心の部分が欠けている。
しかもバロンドールなどとは違い、LFPは誰が誰を選んだという投票結果を公表しない方針を貫いている。つまりキャプテンたちの投票はノミネート3人の選考に使われるだけで、最終的な受賞者はLFPの独断で決めることができてしまうのである。
翻って今回の受賞者リストを見返してみると、アトレティコからは昨季ラージョ・バジェカーノにレンタルしていたサウールを含め、最多7選手がノミネートされた。にもかかわらず受賞者が一人も出なかったのだから、アトレティコ関係者がLFPに不信感を抱くのも無理はない。
クルトワが最優秀GKに選ばれなかったのは、現在所属するチェルシーの許可が得られずセレモニーを欠席したからではないか。ガビが最優秀MFに選ばれなかったのは、現在調査が行われているサラゴサ時代の八百長疑惑に関与しているからではないか――。
「チャンピオンがお前らに挨拶するぞ」
そんな憶測が飛び交う中、先日シメオネは会見の席で次のように呼びかけた。
「カルデロンが満員となることを期待している。毎週末ファンの前でプレーできることこそ、我々にとって最高の賞なんだ」
その翌日。コルドバを迎えたビセンテ・カルデロンのゴール裏には「LFP:EL CAMPEON OS SALUDA(チャンピオンがお前らに挨拶するぞ)」と書かれた巨大な横断幕が登場し、直後にスタジアムは「カンペオーネス、カンペオーネス!」の大合唱に包まれた。
それが自分たちの功績を無視され、王者としてのプライドを傷つけられたLFPに対する怒りのメッセージだったことは言うまでもない。そんなスタンドの力強い後押しもあり、チームは予想以上に健闘したコルドバを4-2で撃破。同日敗れた首位バルセロナを抜いて3位に浮上している。
今回生じた批判により、恐らく次回は選考方法が改善されることになるだろう。ただチームスポーツであるフットボールにおいて個人の優劣を決める絶対的な基準がない以上、きっと今後も個人賞を巡る議論が尽きることはない。なにせ世界中のフットボール狂は、そういう類いの話題には目がないのだから。