野ボール横丁BACK NUMBER
阪神に火をつける男、上本博紀。
超一流の“気迫”だけを武器として。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/10/25 10:40
レギュラー定着1年目の上本博紀。打撃は及第点、あとは両リーグ最多失策の守備力向上が課題だ。
上本が「絶対に出てくる」と思った理由。
2009年に阪神に入団してからも、数字は平凡だった。去年まで3年間は出たり出なかったりを繰り返し、打率はいずれも2割5分ちょっと。今年も、そこまで飛躍的に成長したという印象はなかったのだが、開幕早々、レギュラーの西岡剛が故障で離脱したこともあり、いつの間にか二塁手に定着していた。
131試合に出場し、打率.276、ホームラン7本、盗塁20個とをマーク。その一方で、失策はリーグワーストとなる17個を記録している。
16日、澤村の剛速球を頭部に受けた後、絶対に出てくると思ったのは、上本がこの数字でレギュラーをつかみとった理由は、“そこ”以外に考えられないと思ったからだ。
はたして上本は、平然とまたグラウンドに戻ってきた。
そこからの阪神打線は、上本の気迫が乗り移ったかのように鳥谷敬、マートンと連続タイムリーが出て3点を追加。5-0と巨人を突き放し、勝利を手にした。
ファイナルステージの最大のポイントは、あそこではなかったか。
「他がそこそこでも、気持ちが一流なら通用する」
上本はほとんどしゃべらない。しかし、背番号「4」を背負った小さな背中で、阪神を引っ張った。
あるスカウトが「他がそこそこでも、気持ちが一流ならプロで通用する」という言い方をしていたことがある。その意味がようやくわかった。
上本の数字だけを見たならば、プロ野球選手として一流と呼べるものはまだない。しかし、グラウンドに立ち続ける気迫は超一流である。福田が伝えようとしたのも、そこだ。
日本シリーズも、上本の数字には表れないプレーが阪神の起爆剤になるかもしれない。