野ボール横丁BACK NUMBER
阪神に火をつける男、上本博紀。
超一流の“気迫”だけを武器として。
posted2014/10/25 10:40
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
NIKKAN SPORTS
絶対に出てくる。直感で、そう思った。
10月16日。
阪神が先勝して迎えたCSファイナルステージの第2戦、5回無死一塁の場面で、阪神の2番・上本博紀は、巨人の先発・澤村拓一から頭部に死球を受けた。
カツーンという高い音と、前方に跳ねたボールを見ると、相当な衝撃だったことが想像された。
上本は倒れ込むとそのまましばらく動けず、いったん担架でベンチ裏に下がった。
その時、明治大学4年のショート・福田周平の話を思い出していた。
福田は上本と同じく広陵出身でかつ小柄な内野手だ。
いつかはプロに行きたいと語る福田は、目指す選手像として、真っ先に先輩である上本の名前を挙げた。
その理由を聞くと、こう答えた。
「何としてでも塁に出ようというのが伝わってくるじゃないですか。バット、めちゃくちゃ短く持って。根性、めっちゃあるんですよ。見習いたいですね」
どういうときに根性を感じるのかと問うと、怪訝な顔をした。
「どんなときっていうか……。目、見たらわからないですか?」
広陵時代、監督の中井哲之もことあるごとに選手たちに上本の話をしていたらしい。
しかし、その具体的な内容を問うと出てこない。
「……とにかく気持ちが強い、と。向かっていく気持ちとか、反骨心とか」
やや過大評価にも思えたドラフト3位。
上本は広陵時代、1年夏から正二塁手に定着し、4季連続で甲子園の土を踏んでいる。2年春には、エース西村健太朗(巨人)らとともに日本一も経験した。
2年夏に1番打者として10打席連続出塁を記録するなど、高校時代は打撃センスが突出していた。しかし早大に進んでからは、やはり1年からセカンドとしてレギュラーに定着し、4年間、全試合全イニングにフル出場を果たしたが(それはそれですごい記録なのだが)、高校時代ほどの衝撃は受けなかった。
ミート力は相変わらずで、守備もそれなりに安定している。だが、体が小さいため非力さは否めず、足も特に速いという印象はなかった。
上本のドラフト3位という評価は、妥当か、やや過大にも思えた。