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開催国ブラジルの“異常な精神状態”。
ベスト8のトラウマと陽気な難敵。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2014/07/03 16:30

開催国ブラジルの“異常な精神状態”。ベスト8のトラウマと陽気な難敵。<Number Web> photograph by Getty Images

チリとのPK戦で薄氷の勝利をおさめたブラジル。PK戦が始まる前から複数の選手が涙を流し、勝利後には多くが泣き崩れた。彼らは勝者の精神状態を取り戻すことはできるか。

母国開催のプレッシャーがブラジルを締め付ける。

 6大会連続でベスト8に進出したのはいいが、やはり優勝候補の本命に挙げられていた過去2回の大会では、準々決勝でフランスとオランダに敗れ、大会から去っている。ベスト8のトラウマが、選手たちの胸元へ“負けたら終わり”というプレッシャーをナイフのように突きつけている。

 準々決勝を前に、セレソンの選手たちは精神的に疲弊しきっている。チームには恐怖が充満している。

 '94年に優勝したセレソンには、悪童にして天才だったロマーリオがいた。'02年のチームには、“怪物”ロナウドがいて、名手リバウドもロナウジーニョもいた。

 彼らは皆、ブラジルこそ世界一だという強烈な自負を持っていた。彼らにあった“絶対的な強者の自信”は、ネイマール依存が批判される現在の若いチームにはない。

 コロンビア戦を前にした選手たちは、そのことを誰より痛感しているからこそ、“自分たちは勝てないのではないか”と過度のストレス状態に陥っているのだ。

 事態を重く見た名将スコラーリは、彼自身の知己である精神科医チームをセレソンのキャンプに緊急招聘したが、コロンビア戦を前に打てる手は限られている。

傷だらけの王子ネイマールと大会の寵児ロドリゲス。

 加えて、辛抱強くスタメンで起用してきたFWフッキを初めとするFW陣の不振も深刻だ。萎縮するFWフレッジは1得点に留まり、ゴールを欲するあまり、フッキは個人技に走るようになっている。

 ボール奪取役として中盤の鍵だったMFルイス・グスタボは、累積警告で準々決勝に出られない。

 何より、試合毎に執拗なマークを受けてきたネイマールは、チリ戦で右太ももと足首に深刻なダメージを負った。コロンビア戦を前に全体練習へほとんど参加できず、開幕戦でイエローカードを受けていることから、累積警告による出場停止を怖れて、プレーが消極的にならざるをえないこともマイナスだ。

 ブラジルは完全に手負いの状態である。

 傷だらけの王子ネイマールにとって、すがれる好材料は圧倒的なホームの大声援だけ。ただし、王国を席巻しつつある大会の寵児ロドリゲスは怖れない。

「W杯の準々決勝で、ブラジルと当たるなんて震えがきてもおかしくない。ただし、肩にずっしりプレッシャーの重みを感じているのは彼らの方だ。僕らは、これまで4度そうしてきた通り陽気に、軽快に、そして勝つためにグラウンドへ行く」

 コロンビアが中南米3番目の刺客として、開催国ブラジル打倒に挑む。

 赤道直下のフォルタレーザで待っているのは、大会最大のスリリングカードだ。

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