ブラジルW杯通信BACK NUMBER
開催国ブラジルの“異常な精神状態”。
ベスト8のトラウマと陽気な難敵。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2014/07/03 16:30
チリとのPK戦で薄氷の勝利をおさめたブラジル。PK戦が始まる前から複数の選手が涙を流し、勝利後には多くが泣き崩れた。彼らは勝者の精神状態を取り戻すことはできるか。
ロッカールームに満ちる「ブラジルは倒せる」。
そして必勝を期するコロンビアのペケルマン監督は、準々決勝に向けて新たな手を用意している。現地の報道によれば、ブラジル戦ではこれまで起用してきた「4-2-3-1」から、「4-4-1-1」へスイッチする可能性が高い。
ロドリゲスをセカンドトップに置いて、韋駄天MFクアドラドを中盤の右に下げる新布陣の狙いは、より効率よいカウンター攻撃の実践だ。
彼らは開催国相手にも気負うところはない。
「毎試合、これが自分にとって最後のワールドカップなんだと思ってプレーしてる。だから、頭も魂も全力を尽くして闘うんだ」
ウルグアイ戦で追加点のアシストを決めたクアドラドをはじめ、ロッカールーム全体が「ブラジルは倒せる」と意気込む。彼らの陽気な野心は、はち切れんばかりだ。
大一番を前にしたコロンビアの心身のコンディションは、ピークに達しようとしている。
ブラジルの精神状態は尋常ならざるところにある。
一方のブラジルにあるのは陽気さどころか、不安と悲壮感だ。
優勝することを義務づけられた母国開催の大会は、勝ち進むごとに険しさを増している。決勝トーナメント1回戦で難敵チリを下したのはいいが、その代償は大きかった。
120分間の死闘の末に薄氷の勝利を得たPK戦の後、セレソンの選手たちはほぼ全員が声を上げて泣き崩れた。PK戦が始まる前から目に涙を浮かべ、感極まっている者も大勢いた。
22歳のエースFWネイマールが父親のような代表監督スコラーリと抱擁して泣きじゃくったのはわかるとしても、国際大会経験が豊富なはずのベテラン守護神ジュリオ・セザルやチームを統率すべき主将チアゴ・シウバが、いの一番にボロボロ涙を流していたとあっては、ブラジルの精神状態は尋常ならざるところにある、と言わざるをえない。
スコラーリの懸念は、チリ戦を前に始まっていた。
「1年前のコンフェデ杯のとき、われわれのコンディションは最高だった。しかし、現在の調子は80%というところだ。南米勢同士の直接対決は、緊張と不安を増大させる。地元開催の期待が大きい分、プレッシャーは重くなるばかりなのだ」