プロ野球亭日乗BACK NUMBER
田中に唯一の黒星をつけた男。
菅野智之は繊細な指先で勝負する!
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/01/05 08:01
日本シリーズ第2戦でフォークを投じる菅野智之。シーズンでは13勝6敗、防御率3.12と、ルーキーながら上々の成績を残した。
「覚えようと思って覚えられなかった球種はない」
「これまであれほど指先の感覚が優れた投手に出会ったことはなかった」
こう語っていたのは、東海大学で菅野を育てた横井人輝監督だった。
横井監督の目から見ると、菅野はやろうとしたことをいとも簡単にやってのける天才投手だった。
例えば菅野の最大の武器であるカットボールは、同監督が別の目的のために練習で取り組ませた球種だった。
「ストレートがスライダー回転するのを修正させるためにカットを投げてみろ、と言って練習させたんです。そうやって投げているうちに、本人が“これは使える”と思ったようで、真剣に練習した。そうしたら次の週のリーグ戦では、もう勝負球として使えるボールになっていたんです」
本人は「覚えようと思って覚えられなかった球種はない」と言う。
その秘密は、常人ではちょっと分からない繊細な指先の感覚があるからだ、と横井監督は解き明かすのである。
その繊細な感覚は、プロの世界に足を踏み入れた後にも菅野の投球を支える大きな力となっている。
自己流でマスターしたフォークをここ一番では使っていたが。
実はリーグ優勝を決めたペナントレース終盤から、菅野が「使える球にしよう」と取り組んだ球種があった。
それはフォークだった。
菅野は大学時代からフォークは投げていた。ここ一番で空振りが取りたいときの決め球として、1試合で何球か落としていたのだが、自己流でマスターしたその球種に、自分の中ではどうもしっくりこない部分があったのだ。
思っているほど鋭く落ちないことがある――。
そのためプロ入り1年目の今季は、1試合で1球か2球、多くても4、5球使うのがせいぜいだった。そうしてこのボールは空振りを取るというよりは、打者のタイミングを外す球種として使ってきたわけである。