プロ野球亭日乗BACK NUMBER
田中に唯一の黒星をつけた男。
菅野智之は繊細な指先で勝負する!
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/01/05 08:01
日本シリーズ第2戦でフォークを投じる菅野智之。シーズンでは13勝6敗、防御率3.12と、ルーキーながら上々の成績を残した。
CSまでの10日でものにした“新”フォーク。
しかし、シーズン終盤に空振りを取るためのヒントをつかんだ。
「手首を積極的に使って抜いた方が、ボールは落ちる」
それまでは人差し指と中指でボールを挟むと、そのまま手首を立てた状態でロックしてボールを抜いていた。しかし、手首をロックしないで、普通の真っすぐと同じようにフィニッシュでスナップを利かせながらボールを抜いた方が、落差が大きく鋭くなる。その結果、今までの不安定だったフォークが三振を取れる武器に変わったのだ。
クライマックスシリーズ(CS)までの10日間ほどは、ブルペンで必死にこの新しいフォークを磨いた。そうしてそのわずかな間に、手首を使いながらボールを抜く瞬間の指先の感覚を自分のものにしてしまったのである。
その結果、菅野にとってフォークはポストシーズンの最大の武器になった。
CSファイナルステージの第2戦。広島のエース・前田健太投手と投げ合ったこの試合で、菅野はフォークを軸に11個の三振を奪って完投勝利。そして日本シリーズでも、敗れたとはいえ第2戦も5回3分の1で6安打1失点と好投。そして第6戦ではあの田中に土をつける快投につなげたわけである。
「今の自分に満足はしない」
菅野は言う。
「いつもいつも先を見て、もっともっと上を目指さなければいけない。野球でも、ピッチングでも、これだというゴールはないんです」
プロ2年目を迎える2014年の元旦を、菅野は自主トレ先であるアメリカのアリゾナで迎えた。
メジャーリーガーや他のプロスポーツの選手に混じって新しい自分の能力を引き出す体とヒントをつかむためのトレーニングだ。
変化できる才能があること――この右腕に2年目のジンクスは無関係なようである。