野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
「あきらめない男」古木克明が、
ついに辿りついた野球人生の境地。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2013/11/07 10:31
JR阿佐ケ谷駅前でポーズをとる古木。1カ月以上もプレーしていないとは思えないほどの、黒く精悍な身体つきだ。
「君に野球をやらせたいという人がいる」
今年も“所属なし”という現実に直面し、早くも心が折れかけていた。そんな時、古木の下に元近鉄の佐野慈紀氏からの電話が鳴る。
「君に野球をやらせたいという人がいる」
その報せに古木は取る物も取りあえず、“会いたい”というその人、BCリーグ・石川ミリオンスターズ社長・端保聡氏が待つ石川県に飛んだ。
「端保さんは日本だけでなく世界に目を向けた球団経営をされている方で、ためになるいろいろな話を伺い、そして僕の考えも聞いて貰いました。その中で僕が『海外でプレーすることに興味がある』という話をすると、『今度、石川と信濃がハワイの独立リーグと試合をするから、うちのチームに入って、トライアウトという形で受けてみなさい』と段取りをつけていただき、石川の選手としてハワイのチームとの試合に出させていただいて、トライアウトに合格することができました。八方塞がりだった道が開けたのは端保社長のおかげです」
6月、「パ・リーグ」の選手としてグラウンドに復帰。
今年6月。古木はパ・リーグの選手としてグラウンドに復帰した。パとは今年創設された米独立リーグ「パシフィック・アソシエイション」であり、チームはそこに所属する「ハワイ・スターズ」。「ベイ」が足りないことなんて、古木にはどうでもよかった。
本拠地はハワイ島のヒロという田舎町。かつてウィンターリーグでイチローもプレーしたという球場は、芝生もボコボコでお世辞にもいいグラウンドとはいえない環境。チームには元デトロイト・タイガースで松坂から本塁打を打ったこともあるデーン・サルディーニャから、3Aの選手、独立リーグを転戦する選手、地元の大学生など出自もキャリアもバラバラ。若い選手が大半で、古木はサルディーニャに次ぐ年長。
野球道具と数枚の服だけ持ってハワイ島に上陸した古木の周りに知り合いは皆無。日本人顔の日系人はたくさんいても、誰も日本語を話せない。当然、古木が英語を話せるわけがない。
4人住まいのシェアハウスのリビングで寝起きするプライベートのない生活。薄汚い天井を見つめながら、古木は「30歳過ぎて俺は何をやってるんだ……帰りたい」と何度も我に返りかけるも、グラウンドへの誘惑がそれをさせなかった。