野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
「あきらめない男」古木克明が、
ついに辿りついた野球人生の境地。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2013/11/07 10:31
JR阿佐ケ谷駅前でポーズをとる古木。1カ月以上もプレーしていないとは思えないほどの、黒く精悍な身体つきだ。
ワンルーム暮らし3年目、バットは1カ月握っていない。
2013年、秋。
今月33歳を迎える古木は、ワンルームマンションでの一人暮らし3年目に入っていた。その雰囲気は心なしか柔らかい。聞けば1カ月以上バットを握っていないという。
この秋も、共にグラウンドで戦った多くの選手がユニフォームを脱いだ。同期でライバルだった小池、オリックス時代の後輩で、ベイスターズ移籍後は自分の応援歌を使ってくれと応援団に頼んだという嶋村一輝も、チームの構想から外れ引退。同年代や年下の選手が、それぞれ自らの野球に区切りをつけ、新たな人生を踏み出して行く状況を見るにつけ、古木がNPBへ復帰する可能性は絶望的に思えてしまう。
東京・阿佐ヶ谷のパール商店街には秋風。どことなく、終わりを予感させていた。
「同年代の選手が次々とユニフォームを脱いでいく姿を見ていると、僕もそういう気持ちにならざるを得ません。今の置かれた状態を考えると、ホント『何しているんだろう、俺?』って感じですからね。本来ならもっと早く野球を終えていたはずなのに、まだやっている。随分とおかしなことになってしまっていますよね。
でも、僕は運がいいと思うんです。嫌いになり掛けた野球を、もう一度ここまでやることができた。普通ならとっくに辞めているでしょうからね。今までもよく言われましたよ。遠回りしたな、無駄な努力だったなって。本当に、なんでここまでやれたんだろうと思いますよ」
呆れたように自嘲する。
在野を彷徨うスター古木。孤立無援。
昨年のトライアウト終了後、NPBのチームから連絡が来ないことはわかっていた。NPB復帰を本気で目論んでいた一昨年のトライアウトとはハナから意味が違う。一度野球界から離れた人間が、NPBに復帰する厳しさを思い知らされた1年。何もかも無くして、その後に残ったものは、「もう一度野球がやりたい。試合でホームランを打ちたい」という単純な思いだけだった。
その後も古木は自分を受け入れてくれるチームを探した。知人の伝手を頼りに、国内独立から海外、台湾、韓国、イタリア、オランダ、ドイツ、フランス果てはスロバキアまで、野球と名が付く物ならどこへでも行く覚悟で交渉を続けたが、欧州などの有力リーグは翌年のWBC対策として外国人補強を進めており、既にほとんどの外国人枠が埋まっていた。もとより高齢でかつ実戦のブランクもあり、元格闘家という珍奇な経歴を持つ、古木の入る余地は残されていなかった。
年が明け、国内独立リーグのあるチームから獲得を打診されるも、入団直前で別の元選手を獲得したことで約束は反故に。再び在野を彷徨うスター古木。孤立無援。