野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
「あきらめない男」古木克明が、
ついに辿りついた野球人生の境地。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2013/11/07 10:31
JR阿佐ケ谷駅前でポーズをとる古木。1カ月以上もプレーしていないとは思えないほどの、黒く精悍な身体つきだ。
かつてのライバルが放った最後の打球がレフトスタンドに吸い込まれた瞬間、古木克明は自然と立ち上がり、ガッツポーズを作っていた。
10月8日、ベイスターズ本拠地最終戦。現役生活最後の打席で小池正晃が見せたホームラン。その「最後の打席」を見届ける為だけに、訪れた約1年ぶりのスタジアム。
小池とは1998年ドラフト1位と6位。“松坂世代”の同期であり、ポジションを競いあったライバルだった。堅実な守備と小技が巧みな打撃等、古木にないものを兼ね備えたスタイルで'05年にレギュラーに定着し、その後も大きな壁となり続けた小池の力は、古木が最も知っていたと言っても過言ではない。
「自分の持ち味はバント」
と最後まで言い続け、チームの為に自らを犠牲にしてきた小池が、プロ野球選手として最後の場面になって初めて見せた、捩じ切れんばかりのフルスイング。自分のため、家族のために立った打席で最高の結果を残したライバルの最後に、古木は熱いものが込み上げてくるのを感じていた。
正直、羨ましいな……と思いましたね。
「ああいう最後を迎えることが出来て、正直、羨ましいな……と思いましたね。小池とはライバルだったけど、同時にいい仲間でもありました。アイツは本当に我慢強かったですよ。今年も使われなくてもずっと我慢して我慢してね。一番最後まで我慢できる奴だったから、最後にああいう結果を残せるんでしょうね。
僕は守備をはじめ自分の技術が足りないとばかり思っていたけど、本当に足りなかったものはきっとそういう精神力なんでしょうね。やっぱり、小池は凄い奴ですよ……」
感極まった古木は、試合終了後、ホームベース上で後藤、多村らと共に記念撮影をする小池を見て、フェンスを乗り越えて言葉を掛けたい衝動に駆られたが、このグラウンドへの乱入を目論むやけにガタイのいい観客が、警備員に徹底マークされ乱入を制されたことは言うまでもない。