ベスト4ではいつか抜かれる。抜かれない記録をつくろう。

　準々決勝で明徳義塾（高知）を倒し、目標の四強入りを果たした後も、荒木はこう危惧していた。

「この後どうするか。頂点をねらうという風に気持ちを切り替えていかないと」

　準決勝前夜、荒木は選手にこう語りかけたという。

「ベスト4ではいつか抜かれる。だから抜かれない記録をつくろう。優勝すれば並ばれることはあっても、抜かれることはない」

　その思いは選手に届いていると信じていた。ところが、4試合目の先発となった庄司のボールは立ち上がりから本来のものではなかった。高めに浮き、1回から3回まで1点ずつを失った。5回途中、1死二塁と得点圏に走者を背負ったところで甲子園にきてから初めてマウンドを譲った。

目標を達成して満足してしまったのかも。

　庄司はこう涙を見せた。

「ベスト4という目標を達成して満足してしまったのかも。監督に切り替えろとは言われ切り替えたつもりになっていたんですけど、奥の方の気持ちは違った。結局、『つもり』だったんだと思う」

　そんな庄司を荒木はこうかばった。

「気持ちで投げるタイプだから。疲労が重なって、その気持ちを出せなかったのかもしれませんね」

　2006年にベスト8、そして今年ベスト4。日大山形は山形の歴史をひとつずつ書き換えてきた。ここまできたら、目指すところはもうひとつしかない。が、荒木はこう話すのが精一杯だった。

「今はまだ考えられない。疲れました」