野ボール横丁BACK NUMBER
優勝を目指すことと“つもり”の違い。
日大山形・庄司を襲った「満足感」。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/08/21 19:15
表面上は準々決勝までと変わらぬ投球ぶりだった庄司瑞だが、本人は初回から違和感を感じ続けていたという。優勝を本気で目指す、ということそのものが想像以上に難しいことなのだ。
いつもと違った。
8月21日の準決勝で前橋育英(群馬)に1-4で敗れた日大山形のエース庄司瑞は、こう言って首をかしげた。
「試合前はそうでもなかったんですけど、1回表、マウンドに上がったら、いつもみたいに気持ちが乗ってこなかった」
3回戦で作新学院(栃木)を5-2で下したあと、こんなシーンがあった。
庄司はこの夏の地方大会まで公式戦で一度も完投したことがなかった。にもかかわらず、甲子園に来てから、初戦の日大三(西東京)戦、作新学院戦と、2試合連続で完投勝利を挙げていた。
お立ち台に上がった庄司は、自信に充ち満ちていた。
「甲子園にきて自分の中でも成長しているのがわかる。県大会のときとは比べものにならないくらい手応えを感じている」
日大三戦の7回以降に、突然、テークバックのときの力の抜き方がわかったという。それによってリリースのときにボールに100パーセント力を込められるようになり、ボールのキレが増し、制球も安定した。
入学したときから甲子園ベスト4を目標にしてきた。
山形県勢のこれまでの最高戦績は、2006年の日大山形のベスト8だった。作新学院を倒し、先輩たちの記録に並んだ。
庄司の2、3メートル横で記者に囲まれていた監督の荒木準也は、今後の抱負を問われ、こう殊勝に答えた。
「この学年は入学したときから甲子園ベスト4を目標にしてきた。今は、その挑戦権を得たというだけ。1戦1戦戦っていくだけです」
ところが直後、監督がそんな話をしているとはまったく知らない庄司が満面の笑みを浮かべ、こんな「暴露話」を披露した。
「昨日の夜のミーティングで監督が『明日勝ったら俺は日本一を目指す』と言っていたので、僕もそのつもりでやりたい」
庄司はこのエピソードを何度となく繰り返した。無邪気な教え子の横で「しつこいやつだな」と苦笑していた荒木は、観念したようにその言葉の意味を語り始めた。
「初戦で勝って満足しないよう彼らの目指すべきところを確認した。そうしたら、ベスト4だと言ったから、刺激を与える意味で『俺はてっぺんを目指す』って言ったんです」