野ボール横丁BACK NUMBER
“勝利の味”を知る闘将の密かな悩み。
楽天にどうしても優勝が必要な理由。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/07/16 12:00
7月12日の西武戦、代打で登場した元楽天の渡辺直人が逆転負けのきっかけとなっただけに、星野監督は「ここのファンはわからんね」と悔しそうだった。
5月3日のKスタ宮城で、珍しい現象が起きた。
9回表、日本ハムの4番・中田翔が打席に立つと、アウェイであるにもかかわらず、球場全体が大歓声に包まれたのだ。
中田はその日、第1、第2、第4打席とホームランをマークしていた。つまり、4本目のホームランを期待しての反応だったわけだ。
中田も「点差(8回裏終了時点で、楽天1-10日本ハム)がついていたこともあるんでしょうけど、ホームランでここまで球場がひとつになれるんだと思った」と感慨深げに振り返っていた。
確かに、ホームランの力を実感したシーンではあった。
だが先日、楽天の監督、星野仙一が地元ファンの歓声に苦言を呈したというニュースが立て続けに報道され、そのとき覚えた引っかかりを思い出した。
星野が不快感を示した歓声とは7月10日の日本ハム戦、4回途中4失点で降板した先発投手・永井怜に送られたものと、12日の西武戦、かつて楽天に在籍し、先日DeNAから西武にトレードされたばかりの渡辺直人が代打で登場したときに送られたものだ。球場は、いずれもKスタ宮城だった。
いずれも温かい東北ファン気質を感じさせるエピソードである。
甲子園やナゴヤドームでは考えにくい、楽天ならではの歓声。
ただ、それぞれ歓声の意味合いは微妙に異なる。
かつての功労者を「お帰りなさい」と拍手で迎えるというのは他国および他球場でもよく見られるシーンだ。
昨年7月、マリナーズからヤンキースに移籍したイチローが、シアトルで試合をしたときも地元ファンの喝采を浴びたし、元日本ハムで今年からオリックスでプレーする糸井嘉男も札幌ドームで拍手をもらった。
それはそれでいい光景のように思える。
一方、中田や永井への拍手は、やはり楽天ファンならではの感覚かもしれない。
甲子園やナゴヤドームでは考えにくい。相手チームのスラッガーや、不甲斐ないプレーをした選手には痛烈なヤジのひとつでも飛びそうだ。東京ドームやヤフオクドームもイメージしにくい。唯一、Kスタ宮城に近いアットホームな雰囲気を持っているのが札幌ドームだが、数年前までならともかく、やはり常勝チームとなった今では想像しにくい。