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時機を逸したモウリーニョの進退決定。
違約金と会長の地位を巡る暗闘とは?
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2013/05/30 10:30
就任初年度に国王杯、2年目はリーガとタイトルを獲得しながら、今季は無冠に終わったモウリーニョ。新天地は古巣チェルシーが有力と言われているが……。
5月20日、マドリーのペレス会長がモウリーニョの解任を発表した。
「ようやく」という思いは一部のマドリーファンの間にもあったに違いない。
3年前の5月末、バルサの天下を一刻も早く終わらせたいペレスは、直ちに結果を出す手腕に期待し、大金を払ってモウリーニョをインテルから引き抜いた。新聞雑誌の写真やテレビの画面で映えるモウリーニョの容姿や、強いリーダーシップも自分が求める監督像にマッチしていた。
果たして1年目、モウリーニョは会長としてのペレスに唯一欠けていたタイトル“国王杯”を獲得した。
ペレスはモウリーニョの要望を聞き入れ、会長第一期からの盟友であるバルダーノをGM職から解き、監督にさらなる権限を与えた。
2年目、モウリーニョはバルサのリーガ4連覇を阻止した。
ペレスは'14年までの契約を'16年まで延長した。
こうした経緯をふまえると、モウリーニョの解任(クラブ側は形式的には“退団”と発表)が遅れに遅れたワケも見えてくる。ペレスにとってモウリーニョの失敗を認めることは、即ち自らの失敗を認めることなのだ。
任命責任を追及される恐れが、ペレスの決断を鈍らせた。
となると、会長選挙を控えた今シーズン、安易に自分の評価を落とす真似はできない。
だから、モウリーニョを首にする“チャンス”はこれまで3度あったにもかかわらず、ペレスは踏み切ることができなかった。
1度目は昨年11月末の第13節ベティス戦に敗れた後。首位バルサとの差が11ポイントまで開いた上、記者会見の場でモウリーニョがチームを責めたことで、すでに深まっていた監督と選手の間の溝は修復不可能なレベルに至った。ちなみにマドリー史上、13節で首位に9ポイント差以上を付けられた監督が過去6人いるが、全員シーズン途中で辞めさせられている。
このときペレスはモウリーニョ解任の是非を周囲に相談して廻った。更迭を薦める人は幾らもいた。
だが、翌週のアトレティコとのダービーに快勝したこともあって、会長は決断を保留した。