リーガ・エスパニョーラ最前線BACK NUMBER
時機を逸したモウリーニョの進退決定。
違約金と会長の地位を巡る暗闘とは?
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2013/05/30 10:30
就任初年度に国王杯、2年目はリーガとタイトルを獲得しながら、今季は無冠に終わったモウリーニョ。新天地は古巣チェルシーが有力と言われているが……。
暴君モウリーニョを残すのか、選手たちを守るのか。
2度目はシーズンが折り返し地点に達した1月中旬だ。前半戦の獲得ポイントは、近年では'05-'06シーズンの33に次いで少ない37。マドリーというクラブのプライドを考えると、監督を首にするにはこれだけで十分だが、ファンに不満を抱かせる事態は12月中にも何度か生じていた。国王杯のセルタ戦第1戦の敗北に、当時19位だったエスパニョール戦での引き分け。マラガ戦では前触れなくカシージャスを先発から外し、またもや敗れ……。
「モウリーニョはマドリーに相応しい監督ではない」と、この頃までにペレスは選手数人から散々聞かされていたという。またマルカ紙は関係者からのリークとして、ペレスがカシージャスとセルヒオ・ラモスから“最後通牒”を受け取ったと報じた。2人は選手を代表し、会長に「今季終了後モウリーニョが出ていかないなら俺たちが出ていく」と突きつけた。
ペレス自身、迷っていた節もある。年明け早々、マドリーのソシオ(クラブの有料会員)は、とある会社からアンケートの電話を受け、モウリーニョに対する評価や続投の可否、退団した場合の後任候補、モウリーニョ主導で獲得した選手の出来などについて問われていた。マドリーはアンケートへの関与を一応否定しているが、ソシオの名簿を持っているのはクラブだけだ。
約280億円を費やして、獲得したタイトルは3つだけ。
しかし結局モウリーニョの首は飛ばなかった。ペレスは記者会見を開いてマルカ紙の報道を打ち消し、監督支持を静かにアピールした。リーガ連覇の夢は潰えたけれど、国王杯は準々決勝に進出していたし、CLもグループステージを突破している。ファンが切望する10度目の欧州制覇さえ成し遂げれば全ては許されるだろう。チーム内のいざこざも忘れられるだろう。そう信じて。
ところがCLはベスト4で終わった。
今季を実りあるものにする最後の機会――国王杯決勝戦を前に、ペレスは改めてモウリーニョ解任と続投を秤に掛けた。選手は当然ながら前者を訴えた。役員の大半も同意見だった。が、それでも会長は続投を選んだ。
迎えた国王杯決勝戦の夜、歓喜に湧いたのはアトレティコの方だった。
この3シーズンでマドリーはモウリーニョのためだけに65億円あまりを使い(移籍金と年俸)、モウリーニョの希望に従って約212億円を補強に費やしている。その見返りとしてモウリーニョがクラブにもたらしたのは国王杯にリーガ、スペインスーパーカップの3タイトルだけだから、コストパフォーマンスは極めて悪い。