プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「稼ぎ」と「リスク」で考える、
大谷翔平・二刀流の“損得勘定”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/05/25 08:01
5月23日、投手デビュー戦となったヤクルト戦の3回、バレンティンから三振を奪い雄叫びをあげる大谷。5回6安打2失点で勝ち負けはつかなかったが、最速157kmの速球を披露するなど、投手としてのポテンシャルを存分に見せつけた。
投手よりも野手の方が、現役期間が長く“稼げる”。
「二刀流は翔平との約束。彼がどちらか一本に決断するまでは挑戦させる」
栗山英樹監督の言葉だ。
この言葉からも、いつかは本人が決断して、投手か野手のどちらかで勝負することになる。首脳陣、日本ハムのフロントも、そう考えていることがうかがい知れる。
ADVERTISEMENT
そうなったときに、更なる飛躍を求めるなら、今から立ち位置をしっかりと定めて、それを軸に二刀流に挑むべきだと思うからだ。
そこで思い出したのが、長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督のこんな言葉だった。
「いまの若い子は何でピッチャーばかりやりたがるんですかねえ……」
野手のスーパースターがなかなか出てこないという話になったときに、長嶋さんがこんなことを言っていた。
「だってピッチャーはちょっと肩やひじを痛めたら終わりじゃないですか。その点、野手なら少しぐらい肩、ひじを壊しても、選手を続けることは出来る! 現役でプレーできる長さが違う。稼ごうと思ったら、やっぱり野手なんですよ」
もちろん47歳のいまでも現役で頑張っている中日・山本昌投手のような例もある。ただ、一般論から言えば、故障により選手生命を断たれるリスクが少ないのは野手で、打者の方が選手寿命も長くなるということだ。
ただ、「稼ぐ」という点でみると「投手か野手か」を考えたときに、長嶋さんの時代とは違うもう一つの視点がある。
確かに日本でプレーする限り、投手は実働期間の割に年俸の上昇率は低く抑えられがちである。ただ、今はメジャーでプレーするという選択肢があるということだ。
野手を選択すると、メジャーに行っても“稼げない”。
メジャーの日本人選手に対する評価は、野手より投手の方が格段に高く、年俸面からも投手有利であることは疑いようがない。
日本ハムからテキサス・レンジャーズに移籍したダルビッシュ有投手は、ポスティング移籍にも関わらず、6年総額6000万ドル(当時のレートで約46億円)という高額契約を勝ち取っている。
一方、野手ではかつての福留孝介外野手の4年総額4800万ドル(同約53億円)という破格契約は夢のまた夢だ。昨オフに西武からオークランド・アスレチックスに移籍した中島裕之内野手は、2年総額650万ドル(同約5億5000万円)プラス出来高での契約で、これが精一杯というのが現実である。