WBC 侍ジャパンの道BACK NUMBER
「4番は慎之助。動かすことはない」
ついに実を結んだ山本監督の“我慢”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/03/13 11:45
山本監督とは北京五輪で共に戦い、メダル無しで帰国したという苦い思い出を共有している阿部。監督は大会前から「打たなくても、(チーム全体で)慎之助をフォローしていく形は取れる」と心中を明言していた。
形はついてきた。
不安一杯でスタートした1次ラウンドから10日間、侍ジャパン打線がようやく一つの形となってアメリカに出陣することができたようである。
侍ジャパンは、3月12日に2度目のオランダ戦を10-6で勝利し、2次ラウンド1位通過を決めた。
宮崎合宿から強化試合と極度の不振にあえいだ打線。本大会の開幕直前は、バッティングらしいバッティングができているのが3番を打つ内川聖一だけのような状態だった。そこに初戦のブラジル戦で、代打に起用されて同点タイムリーを放った井端弘和がもう一枚の軸として加わり、この2人で何とか1次ラウンドをしのいできた。
そして2次ラウンドの台湾戦。あの激闘の中で1人、また1人と選手が帰ってきて点が線へとつながり始めた。
稲葉篤紀もこの試合で3安打を放ち復活のノロシを上げれば、坂本勇人も2安打で躍動感を取り戻した。マイペースながら糸井嘉男も5番の重責を担えるようになってきて、土壇場の9回に四球を選び二盗を決めた鳥谷敬というリードオフマンも名乗りをあげた。
そして最後の最後、この台湾戦から2度のオランダ戦を通じて完全復活を果たしたのが、チームの背骨でもある4番の阿部慎之助だった。
「1イニング2本は初めてだったんで……サイコーです!」
1点を追う2回の攻撃だ。
先頭打者で打席に入った阿部は、ファウルで粘った末の9球目に、オランダの先発ダビト・ベルクマンの高めに入ったストレートを豪快に打ち抜いた。弾丸ライナーの1号は、右翼席中段に突き刺さる同点ホーマーとなった。
そして巡ってきたこの回、2度目の打席。今度はカウント1ボール2ストライクからジョナタン・イセニアの低めのカーブが餌食だ。体勢を崩されながらも右手一本ですくいあげた打球は、高く舞い上がって右翼席最前列に飛び込む3ランホームランとなった。
1イニング2本塁打はもちろんWBC史上初、自身にとっても野球生活での初めての体験だった。
「1イニング2本は初めてだったんで……サイコーです!」
東京ドームのお立ち台。復活を確信したように、阿部の口からは得意のセリフも飛び出した。
「長かったし、しんどかったです。状態ははっきり言ってダメでしたからね。間合いが取れないし、自分自身で混乱していました」
宮崎合宿から調子が上がらなかった上に、開幕直前に古傷の右ひざ痛が再発した。
そのため初戦のブラジル戦はベンチスタート。中国戦で4番に復帰したものの、1次ラウンドでは結局、1本のヒットも出なかった。
打てなければ当然のように逆風も吹き荒れる。