WBC 侍ジャパンの道BACK NUMBER
「4番は慎之助。動かすことはない」
ついに実を結んだ山本監督の“我慢”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/03/13 11:45
山本監督とは北京五輪で共に戦い、メダル無しで帰国したという苦い思い出を共有している阿部。監督は大会前から「打たなくても、(チーム全体で)慎之助をフォローしていく形は取れる」と心中を明言していた。
「6番ぐらいで気楽に打たせれば?」の論調も……。
4番で捕手、しかもチームを引っ張るリーダーという重責に、「負担を軽くすべきだ」という声が巻き起こったのはこの頃だった。
特に混成チームによる国際試合の捕手は、初めて受ける味方投手の特徴をつかんで、相手打線のデータも頭に入れなければならない。やるべきことがあまりに多過ぎるのでバッティングまでなかなか頭が回らないのではないか、という声が多く聞こえた。
「打撃に集中できないのだから、6番ぐらいで気楽に打たせた方がいい」
こんな論調が主流になりつつあった。
だが、そんな声に本人は反発した。
「僕は周囲から期待されて色々なことを任される方が励みになるタイプ。だから4番で捕手というのは負担ではなく、むしろ自分にとってはエネルギーになるんです」
そしてブレなかったのは阿部だけではない。
山本浩二監督も、そんな世論を真っ向から否定してこう言い続けてきたのである。
「4番は慎之助。動かすことはない」
3連覇のためには、絶対に「4番・阿部」の復活が必要なのだ!
4番・阿部が機能しなくても、2次ラウンドまでなら何とか勝てるかもしれない。
だが……。
その先の戦い、3連覇という最終目標を成し遂げるためには、絶対に「4番・阿部」の復活がなければならない。
「一番大きな目標を達成するためには、どうしてもアイツの力が必要なんだ。だからオレも逃げないし、阿部にも逃げさせない」
それが指揮官のチーム作りの根幹だということだ。
だから1次ラウンドから他の打順はほとんど入れ替えて試行錯誤を繰り返す中で、阿部だけは不動の4番として固定し続けてきた。その我慢が、ようやくアメリカに乗り込む直前に実を結んだ訳である。