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オランダ完封で“完全復活”宣言!
前田健太に見た日本のエースの資質。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/03/11 11:40
完璧な投球内容にも「味方が先に点を取ってくれましたから、楽な状態で投げられました。今日は野手の方のおかげです」と、さらに謙遜したコメントを出した前田。
周囲の目をまったく気にせず淡々と調整してきた前田。
肩の不安を抱えての宮崎合宿では、本調子とはほど遠い中での調整が続いた。
このときは肩に痛みがあり、キャッチボールもまともにできないような状態で、一時は代表メンバー入りも危ぶまれるほどだった。広島との強化試合では最初のストレートの球速が125キロしか出ず、首脳陣を慌てさせたりもした。
「自分の中でも不安はありました」
前田は振り返る。
ただ、この逆境の中でも前田は自分の心をきちっとコントロールできていた。
周囲の目を気にしてムリにペースを上げたり、焦ることもなかった。現状を見つめ、決して悲観的になることもなく、本番をゴールに見据えて、一歩ずつ計画的に前に進むことができた。
「今日は自分の中でも確信がある。大丈夫です!」
「必ず何とかなるだろうと思ってやってきました」
見違えるようになったのは本番直前、1次ラウンドの中国戦の2日前だった。この日のピッチングでは、それまでとは違って思い切って腕を振って、力強いストレートが復活した。
「これでほぼ大丈夫でしょう」
投手陣をあずかる与田剛投手コーチも、このときようやく一安心の表情を見せていた。
そうして迎えた3月3日の中国戦。5回56球を投げて1安打6奪三振で勝ち投手となり、復活と評されたが、本人の中ではこれもまだまだ過程の一段階だったのだという。
「結果的には抑えることができたんですが、自分の中では投げ方や真っすぐ、スライダーといった一つひとつのボールに納得できない部分があった」
それを修正して臨んだのが、この日のオランダ戦だったというわけだ。
「今日は自分の中でも確信がある。大丈夫です!」
そうして復活宣言が飛び出した。
この前田の復活の姿を見ると、対照的なのが日本のもう一人のエースとして期待されている田中将大の苦闘だった。