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オランダ完封で“完全復活”宣言!
前田健太に見た日本のエースの資質。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/03/11 11:40
完璧な投球内容にも「味方が先に点を取ってくれましたから、楽な状態で投げられました。今日は野手の方のおかげです」と、さらに謙遜したコメントを出した前田。
メディア対応に見る、前田と田中のメンタル面の違い。
田中の場合はメジャー球への対応に端を発して、いまだに本来の力を発揮できずにいる。
中継ぎに回った8日の台湾戦でも、2点ビハインドの場面では6打者から4三振を奪うなど力のピッチングで台湾打線を圧倒しながら、同点に追いついた途端に腕の振りが悪くなり、いわゆる「ボールを置きにいく」形となって痛打を浴びた。
この田中の不安定さの本質はボールの問題ではなく、心のコントロールの問題にあるからこそ余計に厄介なのかもしれない。
その心のコントロールという部分で象徴的だったのが、この間のメディアへの対応だった。
前田は肩の不安をメディアに書き立てられても、どこ吹く風で受け流して(本心はイライラしていたと思うが……)いたのに対して、田中は「中継ぎ“降格”」と報じられると「中継ぎの人に失礼じゃないですか!」という論理ですぐさま食ってかかってしまう。
苛立が抑えきれない。感情をコントロールできずに表に出してしまうところに、心の“幼さ”が出ているように思えるのだ。
その復活劇の裏に、心の強さと“日本のエース”の資質が見える。
前田も田中も力は世界でもトップクラスである。ただ、単なる力だけでは世界には通用しないというのも、これは確かなことなのだ。
大きな試合になればなるほど、大事な場面になればなるほど、カギになるのはメンタルの部分で、自分の心を自在にコントロールできてこそ、押しつぶされるようなプレッシャーを跳ね退けて、勝負どころで力を発揮できるのである。
125キロから144キロ。
だからこの19キロの差の中には、前田の心の強さ、日本のエースとしての資質が秘められているとも思う。