プレミアリーグの時間BACK NUMBER
17年目のベンゲルに退任要求8割!
3月に賭けるアーセナルの命運。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byTomoki Momozono
posted2013/02/26 12:15
バイエルンとの試合後、「もっと自信を持って戦わなくては」と語ったウィルシャー。アカデミーから生え抜きの若き10番は、チームを復活に導くことができるのか。
「チームの自信回復が先決」
今季のアーセン・ベンゲル監督が、敗戦後にそう言ったのは先のバイエルン・ミュンヘン戦(1-3)が初めてではない。国内のカップ戦で下部リーグのチームに不覚をとった後にも、指揮官は同じ言葉を口にしている。しかし、バイエルン戦で負った精神的ダメージの修復作業は過去最高の難易度だ。
CL決勝トーナメント1回戦、アーセナルは、2月19日にホームで迎えた第1レグで優勝候補に格差を見せつけられた。
ピッチ上のイレブンは、先制を許した前半7分の時点から、ベンチ前の指揮官が両手を叩きながら発破をかけなければならない動揺ぶりだった。エミレーツ・スタジアムのスタンドを埋めた5万人を超す「12人目」も、時間の経過と共に生気を失っていった。
前半を終えた時点では、0-2の劣勢に対するブーイングを上回る音量で、「カモン・アーセナル!」の合唱が起こった。だが、フルタイムを告げる笛が鳴った時点では、チームに対する不満の声も、励ましの声もボリュームは上がらなかった。ハーフタイムにブーイングをした不満派は、77分に駄目押しの3点目を奪われた直後にスタジアムを去り始めたようだ。残る忠誠派は、実力差歴然の内容に諦めの心境だったのだろう。
「ベンゲル限界説」は、過去最高のレベルに到達!
就任から17年、アーセナルに心血を注いできたベンゲルは、敗戦の責任と痛みを誰よりも感じていたに違いない。相手監督と握手することもなくトンネルへと消えた指揮官は、監督室で独り、30分近くも自問自答していたとされる。試合後の会見に現れると、沈痛な面持ちで「第2レグでベストを尽くすしかないが、状況は極めて厳しい」と、現実的に語った。
プレミアリーグ5位でバイエルンとの初戦を迎えたアーセナルにとっては、8年連続の無冠がほぼ現実的となる第1レグ敗戦でもあった。
徐々に強まっていた「ベンゲル限界説」は、過去最高のレベルに到達。試合当夜のファンサイトでは、ベンゲルの進退を問う投票で、8割以上が「退任」を求めていた。多少は感情の昂りが収まったはずの翌日にも、『サン』紙の調査で同意見が過半数を占めた。メディアも容赦はなく、『ミラー』紙などは、ベンゲル信者の合い言葉「In Arsene We Trust(アーセンを信じる)」の“Trust”を、“Rust(腐食する)”に変えた見出しを打った。