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2016年までの長期契約を手にした、
「危機感の男」酒井高徳の急成長。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2013/01/29 11:10
シュツットガルトへの完全移籍が発表されたのは1月10日。この移籍でシュツットガルトが新潟に120万ユーロを支払ったとの報道も。
ピッチ脇で若手選手たちに酒井が話していた内容とは?
キャンプに参加した若手選手と組んで、3人で攻めてくる相手を2人だけで守るトレーニングをしていたときのこと。自分たちの順番が終わると、酒井はピッチ脇で若手選手に身振り手ぶりをまじえて、情熱的にそれでいてやや強い口調でアドバイスを送り始めたのだ。
「3対2なんて、普通に考えたら難しいシチュエーションだし、やられることの方が多い。だけど、しっかり声をかければそれも防げる可能性が高くなる。あいつが自分の後ろにいるときには、『(相手を)右に追い込め』とか、『左へ』とか指示してくれれば対応できる。でも、彼はあんまり声とか出さないから、俺も年が近いんですけど、『もっと声出して行け! それが大事だ』って話していたんですよ。それが出来るようになってからはだいぶよくなりましたからね」
与えられたメニューに100%の力で臨むのは当然だ。その上で、これが実戦だったらどのような行動をとるべきなのか。想定して、アクションを起こす。そこに出場停止の選手だから、という油断はみじんもなかった。
新潟からの完全移籍に加え、長期契約まで勝ち取った酒井。
あるいはキャンプが終盤にさしかかったある日のこと。練習を終えると、ラバディア監督に呼び出された。
「出場停止中だなどとは思わず、後半戦の最初の試合に出るようなつもりで、練習に臨んでくれ!」
キャンプの終盤になってそれを言われても……と酒井は冗談を口にした後、力を込めた。
「問題ないです。自分は少しも手を抜いてなかったですから。自分にとって、キャンプは超大事だと思っていたので!」
今シーズンの序盤戦、酒井は出場機会を得られるようになっても違和感を持ってプレーしていた。思うように自分のコンディションが上がっていかなかったのだ。
ロンドンオリンピックに出たことで、シーズン前のフィジカルトレーニングを十分に積めていないことがその一因だった。だからこそ、この冬のキャンプではしっかりとフィジカルコンディションを整えるべく、体を追い込もうとしていたのだ。同じ失敗をしていたら、いつライバルにその座を脅かされるかわからない。ここでもまた、危機感が働いていた。
もっとも、出場停止期間中に、酒井にとって嬉しいニュースもあった。
昨シーズンの途中から今シーズン終了時まで1年半、アルビレックス新潟からレンタル移籍中の身だったのだが、シュツットガルトが買い取りオプションを行使。2016年6月30日までの長期契約を結ぶことになったのだ。