野球クロスロードBACK NUMBER
澤村の速球で引退を決意したが……。
燃え尽きない男、中日・山崎武司。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/12/14 10:30
常に周囲を明るくするそのキャラクターで、チーム内だけでなくファンからも広く愛されている山崎。来季こそ怪我無くシーズンを通して笑顔でプレーできることを祈りたい。
「燃え尽きたい」がために、現役続行の決意を固めた。
日本シリーズ進出の目標が絶たれた10月23日、早くも「引退示唆」といった記事がスポーツ紙に掲載される。球団こそ、「本人が辞めたいと言わない限りは戦力」と留意の姿勢を見せていたものの、当の山崎本人は、「何よりもありがたい言葉だったけど、あのときはまだ自分が納得していなかった」と、答えは確実に引退の方向へと進んでいた。
ところが、1週間後の11月1日、山崎は現役続行を決意する。
「燃え尽きたい」。彼は理由についてそのように述べた。
首脳陣との確執から半ば自暴自棄になり、引退しようとしたオリックス時代の'04年は、楽天が誕生したこともあり思いとどまった。昨年は、志半ばでクビを切られた事実を受け入れられず現役にこだわった。そのような経緯があるだけに、今回も「燃え尽きたい」以外の明確な理由があるはずだ。
山崎がゆっくりと口を開く。
周囲の期待に応えるために「もう1年、頑張ってみよう」。
「今までもそうだったんだけど、今回は特に周りの人たちの言葉が響いたね。楽天を退団したときって、実は『お疲れ様』とか『十分にやったよ』と言ってくれる人が多かったの。だから、もし球団の総意でうまく俺を引退の方向に導いてくれていれば、多分、辞めていたと思うんだよね。でも、実際はそうじゃなかった。だから火がついたんだよ。
でも今回は、みんな『絶対に辞めちゃだめだぞ』と言ってくれたんだよ。シーズン終盤にもなるとさ、『引退しようかな』と思っていると、その雰囲気ってチーム内でも何となく分かるんだよね。そうすると、裏方さんとかに『武司、辞めるのか?』って聞かれるわけ。『考えています』と答えると、『絶対に辞めるな!』って言ってくれるんだよ。OBの先輩方も野球関係以外の知り合いもみんな。そういう言葉が励みになったし、最終的に球団も『頑張れよ』と後押ししてくれたから、『もう1年、頑張ってみようかな』という気持ちになれたんだよね」
12月5日、山崎は300万円減の推定2700万円プラス出来高払いで契約更改した。今季の成績を考えれば異例ともとれる金額ではあるが、それは球団が、まだまだ山崎に期待を寄せている証拠でもあった。