野球クロスロードBACK NUMBER
澤村の速球で引退を決意したが……。
燃え尽きない男、中日・山崎武司。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/12/14 10:30
常に周囲を明るくするそのキャラクターで、チーム内だけでなくファンからも広く愛されている山崎。来季こそ怪我無くシーズンを通して笑顔でプレーできることを祈りたい。
二軍落ちを命じられて頭を過ぎった、野球人生の引き際。
それでも、好調のブランコが骨折で戦線を離脱した7月からしばらくはスタメンとしてチャンスを与えられた。7月14日の巨人戦で待望のシーズン第1号を放ち、激走だって変わらず見せられてはいた。しかし、トータルでは首脳陣を納得させられるだけの結果を残せず、8月8日は二軍に落とされた。
「体力の限界とか故障でベテランは辞めていくんだけど、俺はまだそういう感じじゃなかったのね。ただ、この期間だけじゃないけど、シーズンが開幕してからこれまでの自分をざっくりと評価したとき、『低いな』と感じ始めてね。そういうこともあって引き際を考えるようになった」
身体問題を引き際の理由にはしない。だから、8月22日の阪神戦で左手の薬指を骨折しても、優勝の可能性を残すチームに迷惑をかけまいと、2週間は「突き指」と言い通した。9月4日に、その怪我が骨折だと公表してからも、クライマックスシリーズ(CS)に照準を合わせ、全力で完治に努めた。
澤村の速球で三振に倒れ、「辞めようと思ったね」。
しかし、「低い」と評価する自分の力を挽回するまでには至らない。残念なことに、開幕戦で言っていた「しょうもないこと」をし続けている自分がいる。
それを決定的に思い知らされたのが、巨人とのCSファイナルステージ第4戦だった。
中日が3勝と日本シリーズに王手をかけたこの一戦、0対2で迎えた6回2死満塁の絶好機で山崎は代打として打席に立った。
相手先発の澤村拓一の調子が良かったとはいえ、全くと言っていいほどストレートにタイミングが合わない。結果、内角高めの146キロのボールを空振りし、三振に倒れた。
試合後、「力不足に他ならない」と言葉を振り絞った。力不足。それは紛れもない事実だ。しかし三振の瞬間、自分への不甲斐ない気持ちを振り返るよりも、真っ先に脳裏をよぎった感情があった。
山崎は当時の心境を語る。
「辞めようと思ったね。『辞めないかんな』って。あそこで打てていたら4連勝だったわけだから。どんな選手でもああいう場面で打つのは難しいけど、あのとき改めて、『山崎武司という選手の価値がないな』と感じたのは確か。踏ん切りの材料にはなったよね」