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データだけで潜在能力は見抜けない!
田原誠次が証明した巨人の“眼力”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byToshiya Kondo
posted2012/12/10 10:30
昨年のドラフト7位ルーキー、田原誠次は多彩な変化球を操る技巧派右腕。1年目のシーズンは先発1試合を含む32試合に登板し、2勝7ホールドの成績を残した。
無名の存在だった田原の“力”を見抜いた山下スカウト。
左のワンポイントから中継ぎとして日本シリーズでも登板した高木京介投手は、昨年のドラフト4位指名。同6位入団の江柄子裕樹投手も勝ち星こそなかったが、ローテーションの穴を埋めて3試合で先発するなど、一軍マウンドを踏んでいる。
そして中でも一番注目したいのは、7位指名の田原誠次投手である。
田原は宮崎の聖心ウルスラ学園高校から社会人の三菱自動車倉敷オーシャンズに入団。中央球界ではまったく無名の存在だった。
その田原を巨人の山下哲治スカウト部長が観たのは、2011年、東日本大震災の影響で10月に行なわれた都市対抗野球だったという。伯和ビクトリーズの補強選手として出場した田原は、初戦の東京ガス戦で4回途中から2番手として登板、9回にサヨナラ負けを喫した。そうしてどの球団からも、さして注目されることなく忘れ去られようとしていた。この時点では、巨人のオペレーション・システムにデータも登録されていない程度の選手だったのだ。
だが、この試合を観た山下部長が、田原の潜在能力の高さを見抜いたのだった。
「あの選手は使えるんじゃないか」
田原は、スタートダッシュに失敗したチームの救世主に。
サイドスローから切れのあるストレートとスライダーを投げ込んだピッチングに山下部長が、ドラフトで田原の指名を進言したのだ。たった1度の実戦しかみていなかったが、それで潜在能力を見抜いた。スカウト歴35年のプロの目を信頼して、巨人は7位での指名を決めたというわけだ。
その田原が、スタートダッシュに失敗したチームの救世主となったのは記憶に新しい。
6月に2度目の一軍登録をされると7月1日の中日戦ではローテーションの谷間の先発を任されたが2回で代打を出されて話題にもなった。結局、その先発1試合と中継ぎで31試合に登板して7ホールドをマーク。チームが独走態勢を固めた6月から9月まで、中継ぎのエース的な存在となったのである。
実は昨年のドラフトでは江柄子を指名したのも、山下部長の推薦だったという。