プロ野球亭日乗BACK NUMBER
データだけで潜在能力は見抜けない!
田原誠次が証明した巨人の“眼力”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byToshiya Kondo
posted2012/12/10 10:30
昨年のドラフト7位ルーキー、田原誠次は多彩な変化球を操る技巧派右腕。1年目のシーズンは先発1試合を含む32試合に登板し、2勝7ホールドの成績を残した。
先日、クリント・イーストウッド主演の「人生の特等席」という映画を観た。
辛口で鳴る週刊文春の映画評では、5人の採点者全員が4つ星以上、映画評論家のおすぎさんは5つ星の満点で大絶賛していた。野球好きの知り合いも「いい映画でした」と話していたので、楽しみに映画館へと足を運んだのだが、結論から言えばがっかりだった。
ネタばれしてしまうので細かいことは書かないが、いつも通り頑固者キャラのイーストウッドにもちょっと食傷気味。ステレオタイプの登場人物と、見え見えのストーリーにワクワク感はまったくない。何より凄腕スカウトという設定なら、もう少し凄腕らしいところを見せて欲しかったし(一応、そういう場面があるのだが、これがまたお笑いで……)、全米1位指名候補の天才スラッガーのあまりのヘボぶりには笑えてしまう。
映画は基本は作り物。だからこそディテールをしっかり作り込んでいないと、その仮想空間にまったく入り込めなくなってしまう。そんな思いをつのらせた映画だった。
2時間近い映画で、心引かれたことはブルースがうまく使われていた音楽と、そしてもう一つが、今やみんなが絶賛してやまないセイバー・メトリクス、いわゆるマネーボール系の野球に対するアンチテーゼの内容だった点かもしれなかった。
巨人の優勝を支えた、下位指名ルーキーたちの活躍。
メジャーはもちろん日本でも、選手の能力と情報をデータ化するベースボール・オペレーション・システム(BOS)信仰は、絶大なものがある。
日本では元祖的な存在の日本ハムをはじめ、巨人もこのシステムを独自に構築して、ドラフトからトレード、さらに所属選手の育成にいたるまで、チーム作りのベースとしているのは、野球ファンなら多くの人が知るところだろう。
もちろん筆者も、このシステムの有効性、威力を否定するつもりは、さらさらない。
ただ、今年の巨人を観ていて、やっぱり人の目の凄さ、それこそイーストウッドを凌ぐようなベテランスカウトの眼力を目の当たりにしたような選手がいた。そこにはコンピューターシステムでも凌駕できない、人の力を感じるのである。
今年の巨人の優勝の原動力は、もちろん阿部慎之助や坂本勇人、長野久義という主軸打者の活躍と、内海哲也や移籍組の杉内俊哉、D.J.ホールトンといった安定した投手力にあったのは言うまでもない。
ただ、もう一つ見逃してはならないのが、中継ぎ投手、特にプロ1年目の、しかも下位指名のルーキー投手たちの活躍だった。