社会人チームが、ドラフト終了後まで待ってくれた幸運。

　だが、それも人生の一つだと、小坂は自身の後輩を引き合いに出し、青山にエールを送る。

「（指名がなかった）本人は悔しいやろうけど、これをいい糧にしたらいいと思います。社会人といっても、青山が1年目からバンバン投げさせてもらえるほど、甘い世界ではない。その中で苦しみながらでも、青山が何かを感じ取ってくれればと思いますね。僕の社会人の後輩に久保康友（阪神）がいますが、彼はプロに行くのに、高卒で7年ほどかかりましたが、プロで新人王を獲得しました。青山には久保みたいな道を進んでほしいですね。青山はいずれプロに進める子やと思いますし、時間を掛けてプロに行って、久保のように新人王を取ってほしいです」

　青山のケースは社会人側がドラフトを待ってくれた形だが、すべての選手にそういう選択肢を用意してくれるとは限らない。

　たとえば、大学進学の場合では、どの時期に進路を決めるかで、進める大学も違ってくる。

春の時点で東京六大学への進学が決まっている有力選手もいる。

　大学側はセンバツ大会が終わったあたりから、有望な選手の勧誘を開始する。春の各地区大会が終わった頃には、有名な大学はおよその進路が決定しているというのがもっぱらの噂である。

　青山のチームメイトで、同じようにドラフト候補と言われていた小野耀平は春の奈良大会後の5月中旬に、東京六大学への進学が決まっていたそうである。

「あの時期より後になって『大学に行きたい』と小野がいっていたとしたら、同じ大学には行けていなかったでしょう」と小坂は証言している。

　小野は、早くにプロの選択肢を捨て、進学に切り替えたことで伝統のある東京六大学リーグへ進めたのである。

　指名漏れ選手の中で、最後までプロにこだわり、地方大学に進む選手がいる。

　天理（奈良）のスラッガー・吉村昂祐である。

　吉村は2年春と3年春・夏の甲子園の出場実績がある。3年夏の甲子園ではベスト8に進出。準々決勝の大阪桐蔭戦では、完封目前の9回裏二死、藤浪晋太郎から甲子園球場の左中間最深部にホームランを放り込んでいる。

　吉村は「あの一発が自分の人生を変えてくれるかもしれない」とドラフトでの指名を待ったが、結局、彼の名前が読み上げられることはなかった。

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