野球善哉BACK NUMBER
プロか、大学か、社会人か……。
ドラフト当落線上、高卒選手の野球道。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/11/22 10:30
夏の甲子園では、藤浪晋太郎の149キロの直球をスタンドに運んでいる吉村昴裕(天理)。プロ志望を表明した後、阪神やオリックスが動いているという噂もあったのだが……。
東京の有名私大はドラフト後までは待ってくれない!?
吉村は阪神大学リーグ加盟の天理大へと進む予定だ。
ここ数年の天理の選手というと、「高卒→プロ」という選択をする選手はあまりいなかった。
前任の監督が「下位指名でプロに行くのなら、大学に行っておいた方がその後の人生も考えれば良いのではないか」という方針を持っており、大学進学が基本路線だったからだ。
来年のドラフト候補である法政大の遊撃手・西浦直亨や、2014年のドラフト候補になるだろう早大の1番打者・中村奨吾も天理を卒業する時点ですでにプロが注目する選手だったが、前監督の助言により大学進学の道を選んでいる。
そのことを考えれば、吉村は異例だった。
彼くらいの実力であれば、西浦や中村のように東京の大学にも行けたはずだが、あえてこの道を選んだ。
ドラフト前、吉村はこう話していた。
「早い段階で大学進学に切り替えれば、有名な大学に行けるかもしれないという話も聞きましたけど、僕は、プロに行きたいと決めていたので、迷いはありませんでした。指名がダメでも、天理大さんが面倒を見てくださるということでしたので、そこでお世話になろうと思います」
とはいえ、こういった地方リーグをどう評価するかという点で、一抹の不安が残る。
地方大学リーグで過ごす4年間を、有意義なものにできるかどうか。
阪神大学リーグは近年、急速に力を付けている。関西の5大学連盟の間で行われる対抗戦では4連覇中だし、リーグ全体のプロ野球選手輩出の数も、関西の他大学リーグを凌駕する勢いだ。
だが、リーグのレベルが上がっているといっても、全国レベルで見るとまだ力不足と言わざるを得ない。プロに行く投手を輩出しているといってもリーグから1年に1人出る程度で、全体の投手陣が高いレベルで保たれているわけではない。この環境の中で4年間やるのと、全国有数の投手が集まる東京六大学や東都大学でやるのとでは、環境面で大きな違いが出てくるのは間違いないだろう。
全日本大学野球選手権を見るたび思うが、中央球界と関西の各リーグに感じる差は、主に打撃陣にある。ただ、それは選手個々の身体能力に差があるのではなく、いかに日頃から揉まれ、鍛錬しているかの差なのかもしれない、と思うのだ。
プロから指名を受けた阪神リーグ出身の野手のほとんどが育成枠という現状が、ハッキリとその差を示しているのではないだろうか。
果たして地方リーグで過ごす4年間が、吉村にどういう成長をもたらしてくれるのか……非常に興味深い例ではある。