野球クロスロードBACK NUMBER
原巨人が“全員野球”で日本一!!
阿部が見せたジャイアンツ魂の神髄。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNaoya Sanuki
posted2012/11/04 12:00
優勝を決めた後、「どんな場面でも、どういうチーム状況でも、自分を疑わず、チームを最優先にして堂々と戦ってくれた姿は、未来永劫歴史に残る選手たちだと思います」と選手たちに最大級の賛辞を送った原監督。
やはり、というべきか。試合を決めたのは、阿部慎之助のバットだった。
3勝2敗と巨人の王手で迎えた日本シリーズ第6戦。
初回に矢野謙次のタイムリーで巨人が2点を先制し、2回には長野久義のソロで点差を3点に広げるが、6回、日本ハム・中田翔の3ランで3対3と試合は振り出しに戻される。
この時点で決着の行方を予測できる人間などいなかっただろう。しかし、終わってみればこれも、阿部に最高の舞台を用意するための甘美なシナリオだったようにすら思える。
7回、2死二塁の勝ち越しのチャンスで4番の阿部に打席が巡ってくる。
カウント3-1からの5球目だった。石井裕也が投じた外角へのスライダーに、阿部のバットが鋭く反応する。打球は、石井の右をすり抜けセンターへ……。
4対3。主砲のタイムリーで、巨人は日本一を決めた。
あまりにも理想的で、劇的な一打だった。
「大事なところで打てて良かった。最高です」
阿部は喜びを爆発させる。
原辰徳監督も試合後のお立ち台で、「チームとして大きな柱ですから、本当に価値ある一打だった。あれこそが『ジャイアンツ魂』だと思います」と、殊勲者に最大級の賛辞を贈った。
阿部の出来に、常に大きく左右されていた日本シリーズの巨人。
シリーズを振り返れば、話題の中心には常に阿部がいた。
第1戦で先制打を含む2打点と気を吐き、第2戦では先発の澤村拓一をリードで支え、チームに勝利を呼び込んだ。
「阿部がいれば巨人の日本一は盤石」。そんな雰囲気が漂い始めていた。
ところが第3戦。5回の3打席目で右ひざ裏に違和感(後に右足ふくらはぎの筋膜炎と判明)を訴え、阿部が退く。その後、実松一成がマスクを被ったが、6回と8回にワイルドピッチで追加点を許すなど、最後まで主導権を握ることなく巨人は敗れた。
不穏な空気が流れる。
「阿部は出場できるのか?」「阿部がいない巨人は勝てるのか?」。加速度的に「巨人不利」の論調が世間を支配する。
それでも、巨人は勝った。
不在期間があったにせよ、阿部が果たした役割は大きい。しかし、彼の穴を埋めた選手なくして巨人の戴冠はありえなかった。
その選手とは、ふたりの捕手だ。