欧州サムライ戦記BACK NUMBER
吉田麻也は救世主になれるのか!?
大量失点のデビュー戦に見えた光明。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2012/09/18 11:50
プレミアでのデビュー戦、アーセナル相手に大量失点を許した吉田麻也。3失点目は得点者のジェルビーニョのマークを外したことによるものだった。しかし、ドリブル突破が武器のチェンバレンとの1対1でのボール奪取や、前線への正確なロングパスで持ち味を発揮する場面も目立った。
「Gunned Down(撃殺)」―― プレミアリーグ第4節でアーセナルに挑んだサウサンプトンは、地元紙『デイリー・エコー』が痛々しい見出しで伝えたように、“ガナーズ”の砲撃を浴び続けて大敗した(1-6)。
4失点の前半は、アーセナルのやりたい放題だった。サウサンプトン守備陣は、トップ下のサンティ・カソルラを中心とする、敵のパス&ムーブについていけなかった。相手選手とボールの影を追うことすらままならなかった。立ちすくむだけに近いその様子は、英国メディアの常套句を借用すれば、「夜道でヘッドライトに照らされた兎」のようだった。最たる例が、11分の1失点目。3人の選手を配していた中盤をルーカス・ポドルスキに突破され、4対4だったペナルティエリア付近で、DF2名の間にラストパスを通されている。結果はオウンゴールだが、不運とは言えない失点だった。
「2日間しかチーム練習に参加できなかった」状態での緊急出場。
そのような劣勢の中で、吉田麻也のプレミア・デビューは訪れた。背中に『MAYA 3』とある新CBが最終ラインに入ったのは28分。続く9分間で3失点とくれば、聞こえは悪い。だが、プレミア初の日本人DFは、少なくとも「怯えた兎」ではなかった。
デビュー戦ならではの固さが見られなかったわけではない。ナーバスになるなと言う方が無理だろう。ナイジェル・アドキンス監督によれば、日本代表に取られていた新戦力は、「2日間しかチーム練習に参加できなかった」。万が一に備えてベンチには入っていたが、多少の不安があったとされるヨス・ホーイフェルトのふくらはぎが、前半で悲鳴を上げるとは思ってもみなかったはずだ。
国内メディアは、敵のCKとなった1本目のクリアを、「緊張によるミスキック」と指摘した。本人にしても、ニアポストへのクロスは、スローインに逃れる計算だったことは間違いない。だが、スライスした吉田のクリア以前に、相手右ウィンガーのアレックス・オクスレイド・チェンバレンに、やすやすと突破とクロスを許したことに問題がある。自陣の後方左サイドに空いていた広いスペース。アーセナル攻撃陣には、そのスペースを抜け目なく利用するだけのビジョン、テクニック、スピードが備わっていることは理解していたはず。にもかかわらず、サウサンプトンは、上がっていた左SBのダニエル・フォックスが持ち場に戻るわけでもなく、代わりにボランチが最終列に下がるわけでもなかった。