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<トゥーロン国際密着ルポ> 宇佐美貴史 「敗戦はロンドンのために」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byAFLO
posted2012/06/29 06:00
「ゴール前で思い切りやるのが海外組の良さ」(高木善朗)
一方、オランダでプレーし、今回、初めてU-23日本代表に選出された高木善朗も、宇佐美と同じ五輪への思いを持っていた。
「ここまで来たら生き残りたいというのが本音です。これが本当にラストチャンスですし、そのために何をやらないといけないのか、自分では理解しているつもりです」
高木は、初戦に腰砕けになった仲間たちに檄を飛ばすように激しいプレーを見せた。
「当たりは、最初の頃は体格差もあるし、恐い部分もあったけど、今は恐さもないし、平気。どんな相手にも怯まない、当たり負けしない。それが、海外でやってきた一番の違いなんじゃないかなって思います」
オランダ戦、宇佐美や齋藤と調和するプレーは、かなり楽し気だった。
「2列目の2人とは、流動的にやろうという話をしました。オランダはマンツーマン気味に来るのが分かっていたし、自由にグルグル動かれたら嫌だろうなっていうのがあったんで。まぁ、うまくハマりましたね。でも、個人的には、もっとペナルティエリアに入って、相手の脅威になるプレーをしないと。ゴール前で思い切りやるのが海外組の良さだと思うし、そこをもっと増やせば、もっとゴールも増えると思うんで」
端正な顔を歪めた大津と、完全に表情を失っていた東。
表情は優し気だが、グループ突破がかかったエジプト戦では失点後、がむしゃらに点を取りに行く気迫を見せるなど負けん気も滅法強い。
「点取られて、やられっ放しというのは腹立ちますよ。エジプト戦もみんな本当に点取りたいのかなって思った。そういう気持ちの温度差は感じましたね。チームでは、やれるという自信はついたけど、ゴールを取れなかったので自分の評価は……どうですかね」
エジプト戦は途中交代となり、高木は少しばかり複雑な表情を見せた。
エジプト戦は、敗れれば大会敗退になるので、アピールのラストチャンスでもあった。それゆえ、トルコ戦のふがいないプレーで出場機会を失った選手は練習中から死にもの狂いでアピールしていたが、入れ替わったのは酒井高徳のみ。大津と東は途中出場のチャンスを得たが、初戦の悪夢を振り払うような活躍は見せられなかった。
大津は、端正な顔を歪め、「情けないし、悔しい」と、五輪予選の活躍で得たアドバンテージを失ったかのように沈んでいた。
東は、完全に表情を失っていた。
「トルコ戦の負けを取り戻したかったんで、今日は素直に最初から出たかった。試合に出れないのは本当に悔しいです……」
チーム結成時から中心選手として活躍し、関塚監督の信頼も厚かったが、全体的に低調に終わったプレーは指揮官にどう映ったか。そして、出番のなかった選手たちは、何かを悟ったかのように表情を硬くし、足早にバスに乗り込んで行った。