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<トゥーロン国際密着ルポ> 宇佐美貴史 「敗戦はロンドンのために」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byAFLO
posted2012/06/29 06:00
発表してきた特別連載「LONDON CALLING~ロンドンが呼んでいる~」。
五輪開幕まで1カ月を切ってカウントダウンが始まったこの時期に、
いよいよNumber Webで一挙公開していくことになりました!
第1回は、6月7日発売のNumber805号より、
サッカー五輪代表候補の宇佐美貴史選手。
五輪前最後の大会となった5月のトゥーロン国際。逆境のなかで
輝きを放った男が掴んだ、五輪への手応えと不安要素とは。
トゥーロン国際大会、グループリーグ最終戦のエジプトに敗れ、決勝トーナント進出が断たれた瞬間、宇佐美貴史は、そのままピッチに倒れ、大の字になった。大津祐樹もその場に座り込み、東慶悟は腰を折ったまま、しばらく姿勢を起こせなかった。ベンチの選手たちは、複雑な表情を浮かべて、ピッチを見つめている。それぞれの思惑が交差し、終戦と相俟ってピッチ上は、何とも言い難い微妙な空気が漂っていた――。
「今大会で、選手を見極める」
大会前、関塚隆監督は、そう宣言していた。欧州のチームを相手に誰が、どのくらい戦えるのか。A代表組の清武弘嗣、酒井宏樹、権田修一らをのぞく全員がその対象になった。
そのサバイバルレースから頭ひとつ抜け出したのが、宇佐美貴史、高木善朗、齋藤学のアタッカートリオである。
初戦のトルコ戦、最終予選を戦ってきた国内組中心のチームは、相手の球際の激しさに腰が引け、まったくいいところを見せられず、0-2で完敗した。腑甲斐ない戦いに業を煮やした関塚監督は、つづくオランダ戦、GK安藤駿介、鈴木大輔と扇原貴宏以外8人の選手を入れ替える荒療治に出た。そこで3人は勝利に貢献し、アピールしたのである。
「バイエルンでの鬱憤を晴らす気持ちでやっています」(宇佐美)
とりわけ、宇佐美の活躍は圧巻だった。
オランダ戦で指宿洋史のゴールをアシストし、つづくエジプト戦では2ゴールを決めた。1年2カ月ぶりの代表でのプレーだが、清武らエース不在のチームにあって、キラ星の如く眩い輝きを放ったのである。
「ボールを持ったら前を向いて、ドリブルで仕掛け、点に絡む。それを率先してやることが自分の役割やと思っていたし、今回、流動的にプレーしたのもサイドに固定されてボールに触れられないよりは、サイドや真ん中に動いてボールに触れた方がリズムを作りやすいと思ったから。自分はボールに触れてナンボの選手やし、バイエルンでは簡単にボールをもらえない環境やったんで、その鬱憤を晴らす気持ちでやっています」
ニヒルな笑いを浮かべた宇佐美だが、高木、齋藤、指宿らとの連係は、とても初めてとは思えないものだった。
「チームはポゼッションをしながらラインを上げてたけど、相手からボールを奪った時の話はしてない。でも、奪ったら自然とスピードアップしてショートカウンターみたいになった。欧州でプレーしている選手が多かったんで、そういうスタイルが自然と身に付いて出たんやと思う。学くんとも初めてやったけど感覚が似ていたんで、楽しかった」