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<ナンバーW杯傑作選/'02年6月掲載> 波瀾のプロローグ。 ~選手発表からW杯開幕まで密着!~
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTakuya Sugiyama
posted2010/05/18 10:30
崩壊するフラット3、ついに森岡隆三が戻ってきた。
この試合の最大の注目は、3月に左太腿裏肉離れで長期離脱していた森岡隆三の復帰だった。彼への待望論はホンジュラス戦、レアル・マドリー戦、ノルウェー戦3試合で7失点とフラット3が崩壊した日からますます強くなった。本人もその期待を感じていたのだろう、慎重を期し、段階を踏んで復調してきた。その一方でトゥルシエから「この試合でダメなら考える」と通告され、森岡にとっては最後のチャンスだった。内容は、1失点はしたもののラインを統率し、高さへの対応やセットプレーからの失点も防いだ。結果は、病み上がりにしては上々だったのである。
「早い時間に失点してしまったのは残念だけど、いろんなことが確認できた。カウンターや2列目の飛び出しも注意してできたし、競り合いの部分もだいぶ感覚が取り戻せた。ただ、相手が引いて自分らがキープしている時、後ろで緩急をつけるなど、もっと変化をつけられればと思います。でも、今日はいろんな意味での調整だったんで、あとはコンディションを整えてやれば大丈夫だと思います」
プレーの最中、何度も天を仰いだ小野伸二。
一方、出来が深刻だったのは小野伸二である。右サイドで出場したが居心地悪そうにプレーし、左との視界の違いに戸惑っているようだった。プレーの最中、何度も天を仰ぎ、納得のいかない表情を浮かべた。試合後もいつもの快活さはなく、顔は蒼白で吹出物が出ており、いかにも辛そうだった。
「代表では右はやったことがないし、視野も違うので難しい。それ以上に今、コンディションが悪いというのを感じている。これからドンドン上げていかないといけないけど、1年半やってきて疲れが溜まっているから練習でコンディションを上げたくても、また疲れてしまう。正直、けっこうキツイ。踏ん張りが利かないし、身体が動かない。頭でイメージしたプレーに身体がついていかない感じ。今のままの状態だったら6月4日も自分がピッチに立てるかどうかも分からない」
いつも元気で、決して明るさを失わないのが小野だった。J2に降格した時でさえも明るさを失わず、気丈に会見した。しかし、この日は身体から発する元気のオーラがまるで感じられなかった。この時、小野は自らの体内で起こっていることをほぼ理解していたという。シクシクと刺すようなイヤな痛みと奇妙な重さが腹部に残っていたのである。
「今日は、楽しかったすよ」
そう笑ったのは、稲本潤一だ。