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<ナンバーW杯傑作選/'02年6月掲載> 波瀾のプロローグ。 ~選手発表からW杯開幕まで密着!~
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTakuya Sugiyama
posted2010/05/18 10:30
宮本が鼻骨を骨折。森岡も完治したばかりで……。
小野は29日、夕方に退院し、磐田の合宿所に戻った。「虫垂炎」らしいということだけで、正確な病名は公式発表されていない。いずれにしても薬で痛みを散らしての参戦になってしまった。それは体内に爆弾を抱えたのも同じだ。
「6月4日にピッチに立つのが楽しみだし、絶対に立たないといけない」と、地元で戦うことを心待ちにしていた。開幕後のピッチに18番がいることを願わずにはいられない。
小野が磐田に戻った翌30日、今度は宮本恒靖が静岡産業大学との練習試合で鼻骨を骨折してしまった。幸い2日後には、白いプロテクターをつけ練習に参加。普通に食事もしているようで問題はなさそうだが、試合ではプロテクターで視界が狭まるし、折れた鼻への恐怖感も残るだろう。
だが、フラット3を統率できるのは宮本と森岡だけである。森岡も完治したばかりでムリはできない。スペアの利かない二人に“もしも”という不吉なことが起こるとフラット3という日本の戦術の根幹を揺るがすことになるのだ。
長かった苦難の準備期間も終わり、いよいよ決戦へ。
それにしても今年に入ってから選手の発病やケガがやけに多い。高原直泰は4月、エコノミー症候群が発症し、ワールドカップを断念した。西澤も5月上旬に急性虫垂炎で緊急手術。小野は虫垂炎、そして宮本の鼻骨骨折である。まるで何かに呪われているみたいだが、6月1日、久しぶりに23名全員がピッチに揃ったのは、決戦を3日後に控えてのことだった。
ワールドカップ開幕後、選手は試合を見ながら徐々に気持ちを高めてきた。フランスの敗戦に気を引き締め、アルゼンチンの勝利に4年前を思い出した。試合当日はフランス大会で城彰二が「心臓がバクバクして喉がカラカラになった」というような緊張感を味わい、戦うことになるだろう。優勝、大敗、戦友の落選、選手のケガ、病気などあらゆる苦難を経て4年間の長い準備は終わった。
“赤い悪魔”と戦う日が近づいていた。