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マンUを撃破した男――。
イビチャ・オリッチの献身を見よ!
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2010/04/12 10:30
CL準々決勝1stレグ、2ndレグともに貴重なゴールを決めたオリッチ。CLではチーム最多の4ゴールを挙げている
イビチャ・オリッチへの賞賛の声が鳴りやまない。
チャンピオンズリーグ準々決勝。マンチェスター・ユナイテッドとの1stレグで後半ロスタイムに決勝ゴールを決めると『ビルト』紙は過剰な表現で彼の健闘をたたえた。
「マンU戦のトラウマから11年、ロスタイムのゴールで復讐を果たした」
マンU戦のトラウマとは、ロスタイムに2点を決められて涙を飲んだ1999年のCL決勝のことだ。
2対1で勝利した1stレグのアドバンテージを持って迎えた2ndレグでは、前半41分までに3点を奪われる苦しい展開となった。だが、前半終了間際にオリッチが1点を返したことでチームは希望を取り戻す。後半29分、アリエン・ロッベンの華麗なボレーシュートが決まり、スコアは2対3に。アウェイゴールの差でマンUを退けた。試合後に殊勲のロッベンが説いたのは、オリッチが決めたゴールの価値だった。
「あのゴールが自信を与えてくれたんだ」
──バイエルンのミツバチ。
『キッカー』誌がこう評するように、オリッチの魅力の一つは、休むことなく相手にプレッシャーをかけ続けられることだろう。彼は最前線に立つディフェンダーのように、ボールを奪いにいく。マンU戦の1stレグの決勝ゴールにしても、ペナルティエリア内でこぼれたボールを相手が拾おうとした瞬間に背後から忍び寄り、ボールを奪い取って決めたものだ。
ディフェンダーのフィリップ・ラームも、彼の貢献を口にする。
「イビチャはいつも相手を追い回してくれるんだ」
冷遇されても腐らずに、努力を重ねて開幕スタメンの座を。
バイエルンがCL優勝を果たした'00-'01シーズン以来となるベスト4進出を決めた準々決勝で最も輝いていたのは、オリッチだろう。
30歳になるこのクロアチア人は、今季開幕前にバイエルンにやってきた。18歳で母国のNKマルソニアからブンデスリーガのヘルタ・ベルリンに移籍したものの、思うような活躍が出来ず、一度母国に戻った経験を持つ。その後、CSKAモスクワ、ハンブルガーSVなどを経て、11年がかりでドイツのトップクラブに登りつめた苦労人だ。
だが、バイエルンに加入した当初、彼は厳しい状況に置かれていた。彼の位置づけは、マリオ・ゴメス、ミロスラフ・クローゼ、ルカ・トニ(現ASローマ)につぐ4番手のFW。監督のルイス・ファンハールも、自身の監督就任前に入団が決まっていたオリッチについて、当初は突き放したようなコメントを残している。
「彼は私がチームに連れてきた選手ではない」
だが、彼は腐らなかった。
「(監督の発言は)新聞で読んだんだけどね……。監督の決定は受け入れないといけない。あとは、練習で自分のプレーを見せていくしかないんだ」
プレシーズン中に懸命なトレーニングを続けると、ライバルFWの怪我もあり、開幕戦でスタメン出場を果たす。8月にはバイエルンファンの投票で月間MVPに選ばれるなど、順調なスタートを切った。だが、10月に右ふくらはぎの筋断裂で離脱。彼を欠く間、バイエルンの成績も停滞していた。