ブンデスリーガ蹴球白書BACK NUMBER
マンUを撃破した男――。
イビチャ・オリッチの献身を見よ!
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2010/04/12 10:30
CL準々決勝1stレグ、2ndレグともに貴重なゴールを決めたオリッチ。CLではチーム最多の4ゴールを挙げている
オリッチがスタメンに復帰後、チームは公式戦13連勝。
転機は、11月に訪れる。
負傷が癒えて間もないCLマッカビ・ハイファ戦、クローゼの負傷によりスタメンで起用されると、決勝点をマークして期待に応えてみせる。そして、この試合がバイエルンのターニングポイントになった。
ハイファ戦の前までに20試合を戦っていたバイエルンだが、その間、2試合続けて同じスターティングメンバーで戦ったことはなかった。今季から監督に就任したファンハールが試行錯誤を繰り返していたからだ。ところが、オリッチが復帰してスタメンが固定されると、それまでの迷走ぶりが嘘だったかのように、公式戦13連勝を果たしたのだ。
オリッチがタイミング良くサイドのスペースに飛び出してボールを引き出す。良質のパスが来なくとも大丈夫だ。自慢の馬力を活かしてボールに追いついてしまう。また、彼がスペースに飛び出して敵をひきつけることで、味方にスペースが生まれる。思うような結果を残せずに苦しんでいたFWゴメスは、オリッチがスタメンに復帰するとゴールを量産。彼が今季リーグ戦で決めた10ゴールのうち、8ゴールはオリッチとともにプレーしている時間帯に生まれている。二人の相性は抜群に良い。
2月からフランク・リベリーの復帰に伴い、スタメンの座を明け渡した時期もあった。それでも、ゴメスの負傷とクローゼの不調により、スタメンの座を奪い返した。それ以降の5試合で3ゴール、1アシストの活躍を見せているのは周知の通りだ。
「イビチャはチームのために全てを投げ出してくれる。だから彼は頼りになるんだ」
マンUとの1stレグの後、記者会見に臨んだファンハールはオリッチへの賛辞を惜しまなかった。
「自分の持っている全てをチームに捧げるんだ」
オリッチの身長は182cm。ヨーロッパの中では体格に恵まれているわけではない。かといって、敵を翻弄するようなドリブルが出来るわけでもない。それは彼自身もよくわかっている。
「僕はリベリーのようなテクニックを持っているわけではないからね。試合が終わるまで、自分の持っている全てをチームに捧げるんだ。大切なのは僕ではなくて、チームなんだ」
絶え間なく走り続けるスタミナと、チームへの献身的な姿勢。そして、冷遇されても折れない心。奇しくも彼と同じ呼称を持つイビチャ・オシムは、日本人選手が目指すべき存在としてオリッチの名を挙げていた。
今季のCLも、残り5試合。決して真似することの出来ないリオネル・メッシのスーパープレーに目を奪われるのもいい。ただ、日本人にも真似できるようなプレーを見せるオリッチに注目してみても面白いかもしれない。