プロ野球亭日乗BACK NUMBER
ダルビッシュよ、開幕から頑張るな!?
メジャーで成功する意外な秘訣とは。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2011/12/26 10:30
ダルビッシュ有の独占交渉権は、ア・リーグ西地区のレンジャーズが獲得。契約に至れば、同地区マリナーズのイチローとの直接対決も実現する
この10年ほど、日本のプロ野球と並行してメジャーの取材もするようになって、漠然と抱いていた感想があった。
「メジャーの試合は、4月いっぱいぐらいまではあまり面白くない……」
理由は選手の仕上げ方にある。
日本では2月1日のキャンプインから紅白戦を経て、3月のオープン戦と綿密なスケジュールの下で開幕に臨むのが当たり前だ。そこに合わせて、選手は主力も若手も目一杯に仕上げてくる。
ところがメジャーの場合はちょっと事情が違うのだ。まずスケジュール的にも、キャンプインが2月中旬過ぎと約半月遅い。それだけ開幕までの調整期間も短いのだが、加えて選手、特に主力選手の調整への考えには日本と微妙にズレがある。
メジャーの主力選手は開幕に照準を合わせていない?
「まあ、そんなにアセる必要はない。何も開幕に目一杯に合わせることもないし、だんだんと調子を上げていけばいいんだから」
これは元ボストン・レッドソックスのマニー・ラミレス外野手の言葉だ。
現役時代のラミレスは、もちろん超ド級のスーパースターだった。彼のような主力選手たちは、まずプレシーズン期間はケガをしないで、オフの間に眠っていた体と技術を呼び覚ましていくことを主眼にグラウンドに立っている。結果として、開幕は7割から8割ぐらいの状態で迎えられればいい、という感覚なのである。
だから4月の選手の動きはあまり良くない。必然的に大味な試合も多いし、4月のメジャーは面白くない、という感想につながっていくわけだ。
開幕から飛ばしすぎないのはメジャーリーガーの知恵!?
しかし、である。
この仕上げ方は、実はメジャーリーガーたちの知恵であるようにも思うのだ。
面白いデータがある。
シアトル・マリナーズのイチロー外野手のものだ。
イチローも実はスロースターターの傾向があって、メジャー通算の4月の打率は3割2厘(それでも3割を打っているのが凄い!)だが、残り5カ月のトータルでは実に3割3分をマークしている。
そして4月に3割2分8厘と比較的高いアベレージを記録した今季は、その後の5カ月で2割5分9厘しか打てず、連続200本安打が10年でストップした。もっと言えば、シーズン最多安打記録を作った2004年の4月は2割5分5厘の低アベレージで、その後に3割9分2厘と打ちまくって262安打を打った。翌05年は逆に4月に3割5分6厘と好スタートを切ったが、5月が2割8分8厘、6月が2割4分3厘と長いスランプに悩むことになる。