プレミアリーグの時間BACK NUMBER
英雄、7カ月ぶりの先発フル出場!
限界説を吹き飛ばすジェラードの闘志。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byMan Utd via Getty Images
posted2011/10/26 10:30
フリーキックを蹴るジェラードと、どうしたわけかそのボールを避けるように動いてしまったギグス。この強運こそスーパースターの証である
ルーニーの出場停止濃厚なEURO2012を英雄が救う。
イングランドは、出場を決めている来年のEURO2012で、エースのウェイン・ルーニー抜きでグループステージを戦うはめになる可能性が高い。予選最終戦で一発退場を命じられたルーニーは、処分の軽減を求める訴えが認められたとしても、本選開幕からの2試合で出場停止となる公算が大きい。「10番」の欠場に早くも悲観的な気分になっている国民の中には、センターハーフとしてだけではなく、4-2-3-1システム採用時のリバプールで、トップ下としても実績を残しているジェラードの存在に望みを託している者も少なくないだろう。
そして、その期待は、先のマンU戦で更に高まることになった。ジェラードは、チームとしては伝統の強豪対決、自身にとっては本格的な復帰初戦という注目の大一番で、まるで実写版の作品でロイ役を演じているかのようなパフォーマンスを披露したのである。
チームメイトと抱き合いながら高ぶる心を抑えていた。
さすがに緊張の様子も見られたが、そこは、現実世界での出来事なのだから仕方がない。当人にとっては、「精神的なドン底を経験した」という7カ月間を経た末のスタメン復帰だったのだ。今年の3月と4月、立て続けにグローイン(股関節)にメスを入れた直後は、しばらくの間、残る選手生活を前向きに考えることすら難しかったという。昨季終盤からスタンドでの試合観戦を余儀なくされ、今季の開幕にも間に合わなかったベテランには、巷で限界説さえ囁かれた。9月後半にようやく途中出場が可能になったジェラードが、復活アピールを必要以上に意識していたとしても不思議ではない。
ピッチ上でキックオフの笛を待つジェラードは、通常、パンツの紐を締め直しながら、脚の筋肉をほぐすように、左足、そして右足で軽く宙を蹴る。しかし、マンU戦では違っていた。ルイス・スアレス、チャーリー・アダム、ルーカスら、近くのチームメイトたちと次々に抱き合いながら、同志の背中を叩いて声を掛けるその姿は、「帰ってきたぜ」と周囲を安心させると同時に、自らの心の高まりを抑えようとしているかのようでもあった。
試合の前半は、3日後のCL戦を意識したマンUが、戦力を温存して守備的なアプローチを取ったこともあり、膠着状態が続いた。だが、後半に入って試合を動かしたのは、他ならぬジェラードだった。