プレミアリーグの時間BACK NUMBER
英雄、7カ月ぶりの先発フル出場!
限界説を吹き飛ばすジェラードの闘志。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byMan Utd via Getty Images
posted2011/10/26 10:30
フリーキックを蹴るジェラードと、どうしたわけかそのボールを避けるように動いてしまったギグス。この強運こそスーパースターの証である
10月15日のリバプール対マンチェスターU(1-1)で、スティーブン・ジェラードが、実に7カ月ぶりとなる先発出場を果たした。この時を待ち侘びていたのは、31歳のMFを「英雄」と崇める、リバプール・ファンだけではなかったはずだ。
イングランドには、1950年代から半世紀に渡って人気を博した、『Roy of the Rovers』というサッカー漫画が存在する。日本で言えば『キャプテン翼』のような作品だ。類稀な才能と不屈の闘争心を武器に、逆境の中でも獅子奮迅の活躍でチームを勝利へと導く、主人公のロイ・レース。サッカー好きで知られる国民は、現実の世界で「ローバーズのロイ」に最も近い選手として、「リバプールのスティービー」に惹かれ続けてきた。
リバプールの奇跡的な勝利と言えば、ACミランに前半で3点のリードを奪われながらも、最終的にはPK戦の末に勝者となった、2005年のチャンピオンズリーグ決勝が有名だ。後半の7分間で生まれた3ゴールの口火を切ったのは、ジェラードの強烈なヘディングシュートだった。そもそもリバプールは、ジェラードがいなければ決勝トーナメント進出すら危うかった。16強入りには、最低でも2点差の勝利が必要だったグループステージ最終節、ジェラードは、3対1の勝利を確定する20m弾を終了間際に叩き込んでいるのだ。
サッカー漫画のヒーローばりの活躍にオーナーも驚喜!?
昨年10月半ばにリバプールを買収したばかりの現オーナーも、ジェラードに魅せられるまでに時間はかからなかった。11月初旬のヨーロッパリーグ戦、ナポリに押されたまま0対1でハーフタイムを終えた時点では、スタンドの役員席で投資を後悔していたかもしれない。しかし、前半はベンチに温存されていたジェラードが、後半の15分間でハットトリックを決めて逆転劇を独演すると、オーナーはガッツポーズを見せて揚揚とスタジアムを後にしたのだった。
クラブでのレベルには及ばない代表でのプレーは、メディアで非難されることもあったが、それでもジェラードは、時に漫画の世界から抜け出したようなパフォーマンスを披露してきた。例えば、昨夏のW杯直後に行われたハンガリー戦(2-1)。ホームで敵に先制点を献上したイングランドは、失意の南ア大会を上回る屈辱を味わうかに思われた。だが、ジェラードが、得意のミドルと、DF3名を振り切っての突進でもたらした2得点により、ウェンブリー・スタジアムを埋めたサポーターは、代表戦のスタンドで久しぶりに笑顔を取り戻すことができた。